第9話 告白

 光国は頷き、


「構わないよ。おまえも何か注文すれば」

「じゃあ、チーズケーキをもらってきます」


 言うなりレジ近くのショーウィンドーに行き、ケーキを持ち出し戻ってきた。制服姿のまま、光国の正面の席に座る。軽く手を合わせてから食べ始めた。そこでようやく、自分も食べなければ、と気が付いた。


 しばらくはお互い黙り合って食べていたが、


「光国。どうして、ここに来てくれたんですか」

「わかんないんだよ。気が付いたらここに来てた」


 正直に言った。ツヨシは光国をじっと見て、


「何か話したいことがありますか」


 ツヨシの問いに、つい頷いてしまった。


「もう、どうしていいかわからなくて」

「昨日、何があったんですか」

「あの小学生を好きになった」


 ツヨシは、何も言わずに光国を見ている。その表情からは、この発言についてどう思っているのか判断できなかった。


「オレ、おかしいんだと思う。彼女はまだ十歳の小学生なんだよ。ちゃんとわかってるんだ。それなのにオレはあの子が本当に愛しいなんて思っちゃってるんだ。

 やめろって自分に何度も言ったんだけど無駄だった。全然この気持ちは消えてくれないんだ。

 可愛い子なんだよ。黒い髪が腰くらいまでの長さで、前髪は眉の上で切り揃えられていて、目がぱっちり。なんていうか、人形っぽいっていうか。

 でもさ、違うんだよ。オレはそこに反応したんじゃなくて」

「違うんですね」

「ああ。違うよ。もっとこう、深い部分で彼女を愛しいと思ってるんだ。だから、消せない。ただ可愛いな、じゃないから。やっかいなんだ」


 光国の言葉に、ツヨシは真顔で、


「それで、光国はその子を押し倒したいと思ったんですか」


 きれいな顔をしているくせに、なんてことを言うんだよ、と突っ込みたくなった。が、口から出てきたのは、


「思わないよ。さっきも言ったけどさ。もっと深い部分で彼女を愛しいと思ってるんだ。なんだろう。すごく優しく包んでやりたい、とかそんな感じだよ。押し倒して何かしたいとか思ってない。そうじゃなくて……」


 うっかり泣きそうになった。


「傷つけたくないんだ、彼女を。笑顔が見ていたい。だけど、泣いてるとこばっかり見ちゃったんだよ、昨日は。実際に泣いてた時だけじゃなくて、そうじゃない時も心の中で泣いてた。そう感じた。

 一生懸命大人びた風にしようとしてるんだけど、そんなに無理するなって言いたい。ああ。馬鹿みたいだよな、オレ」


 涙が流れ出して、落ちた。ツヨシがそれを見ているのがわかったが、どうにも出来ない。


「光国。そんなに我慢しないで下さい。我慢ばっかりしていると、病気になってしまいますよ。私の前でくらい、素顔を見せてもいいじゃないですか」

「ありがとう」


 それだけ言うのがやっとだった。


「それじゃ、仕事に戻りますね。ゆっくりしていってください」


 美しく笑んで、去って行った。

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