第12話 袖振り合うも他生の縁
「お店から出られないって、どういうことなんだよー!」
白のローブ姿でじたばたしながら地面をのたうち回るこの少女、唯一新たな魔術を広めることができる能力を持つため、世界中の国が喉から手が出るほど欲しがっている極彩色の魔女その一人だ。
「気が付かなかったけど、金がないんじゃ当たり前だよな、ははは」
俺と極彩色の魔女シエロは近未来型バイク<アトラス・ストライク>に乗って、都市<ホワイトブロック>に到着していた。
名前の通り、白煉瓦で作られた家々が立ち並び、街中は煉瓦道も伸びて、かなり整えられた街に感じた。
人口もそれなりにあるようで俺とシエロはとりあえず腹ごしらえをしながら、今後の事を会議しつつ、飲食店でたらふく食べてから気が付いた。
金がないことに。
「もう一度聞くが、シエロは金持ってないのか、実は少しくらいあるだろ?」
「お金なんて見たこともないよ、森じゃ使う機会なったし、聞いたことしかないんだよ」
「んじゃ、アトラ、こればっかりは何とかならない……よなぁ?」
アトラス・ストライクから違和感のない形に変化したアトラは、今俺の背中に貼りついている。
そうビジネススーツを着たサラリーマンでも違和感ない姿、それはビジネスリュックサックとして擬態していた。かなり頑丈そうである。
ビジネスマンは異世界では目立つのか、他の人間が遠巻きに俺を見ては逃げていく。
俺をじっと見ているのは支払いを待つ、大人しいそうなウエイトレスくらいだ。
『資金に関しては現地調達となりますので』
「だよなあ、せめて仕事口でもあれば」
ここは仕方ない、皿洗いでも何でもしてまずはこの場を切り抜けようと思ったとき、俺の後ろに並んでいた褐色肌のお姉さんが、スッとお金をウェイトレスに手渡した。
「あ、あのこれは……」
「こいつらの金だ、あたしが貸しといてやるよ」
「こ、このお姉さんカッコイイの」
飯代を立て替えてくれたお姉さんをよく見ると、目鼻立ちが整った綺麗な女性だった。服装もパリッとしていて何か大事な役職についているように見える。
「すまない、正直なところ助かった」
本当は断るべきだが、断ったところでどうしようもないので本音でお礼を伝える。
「なに、いいってことよ、それよりもあんた、働き口がないんだって?」
店の外に出る褐色のお姉さんに付いていき、俺とシエロも店先を出る。
「恥ずかしい話、無一文でね」
「はは、子連れで無一文とはな。変わった格好だし、最近多い国同士の戦争から逃げてきたのか?」
「まあ、そんな感じだ」
シエロは「そうじろうの子供じゃない!」と両腕を上げて抗議しようとしていたが、面倒くさくなるのでとりあえず口を塞いでおいた。
「まあそうだな、今はどの国も魔術だ魔女だ、グロウスだなんて言って、小競り合いが続いていやがる。本来ならこの街でも普通の仕事にありつけるんだが、今では仕事を探すだけでも一苦労よ」
「まじか……くっそ、これじゃさっそく借りた借りも返せないじゃないか」
悔しがる俺を見て褐色の女性は、俺の足元から腹、腕は何度か感触を試すように触り、最後に顔をじろじろと見る。
「な、なにか」
「30代ってとこか、目は死んでて、腕っぷしもなさそうだ、だがまあ、人間やるときはやらなきゃな」
褐色の女性はがっはっはと豪快に笑う、大笑いしても整っているのだからかなりの美人さんだ。
「あたしの仕事場に連れてってやるよ、その子を食わせなきゃならんのだろう?」
「ありがたいが、あんた、なんでそこまで」
「あん? 隣で飯を食ってた、金がない家族がいる、戦争で働き口もねぇ、なら手を差しだすのが筋ってもんだろ」
再び笑いながら褐色の女性はずんずんと前を歩いていく。
俺とシエロも慌てて彼女の後を追う。
女性の後をついて数分、さほど遠くない場所に俺たちは連れてこられた。
そこは他の建物のと同じように白煉瓦で作られているが、図書館のように横長で巨大な施設だった。
「さあ、気にせず入った入った」
「おい、ここは」
戸惑う俺をしり目に女性は俺の背中を押して中へと無理やり入れる。
中は昼間の日差しが差し込んで明るいが、ロビーのような広間にいる人間たちは誰もが物騒な顔をしていた。
「うお……」
筋骨隆々の男や顔に傷のある男、背中に大剣を背負っている男もいれば、ファンタジー世界のように杖のような長い棒を持った女性もいる。
「なんか子供のころやったゲームで見たことあるなこんな場所」
戦士がいて魔法使いがいて武道家がいて、勇者の俺は誰を連れていくのか決めるやつ。
まさか異世界にあるなんてな。
「冒険者ギルド~ホワイトブロック支部~へ、ようこそ新入りさん」
「こ、こういう感じなのか」
実際にギルドってやつをこの目で見てみるとなんと物騒な事か。
ここにいる冒険者たちは皆、武器を手にもって俺の姿をじっと見ている。
明らかに場違いな痩せたおっさんが来たと思われているに違いない。
ほら、あそこにいる僧侶の爺さんなんて拝んでるじゃねーか。
「あたしはここを取り仕切ってる、メディアだ、よろしくな、おっさん!」
重苦しい雰囲気を気にも留めずに、メディアさんはにっこりと俺に微笑んだ。
「俺は義贋総司郎だ、よろしく」
「シエロはシエロだよ」
俺たちも続けて挨拶し、メディアさんに奥の部屋に通される。
いくつかある部屋の一つに通されて、俺とシエロはその部屋にある椅子に座った。
部屋の中はテーブルと椅子があり、花瓶が置かれている。
まるで面接室のようだ。
「さてそれじゃ、早速だけど義贋のおっさん、冒険者になって昼飯代返してみない?」
メディアさんはそこからギルドと冒険者の話をかいつまんで話してくれた。
この異世界にはグロウスってモンスターが突如増えだし、魔術が広まっている今の時代だからこそ、魔術の素材になるグロウス狩りの仕事がいくらでもあるらしい。
冒険者は元から世界の様々な場所へ、本来は珍しいグロウスを狩ったり、武器や防具や珍しい道具を探しに行ってたり、遺跡調査なんかも代行してたらしいが、魔術素材となるグロウス狩りが増えすぎて今では人手が足りないくらいなんだそうだ。
どの国も争ってまともな仕事はないわけだが、流石に危険な仕事なら席は空いているわけで、確かにこれならすぐに金は返せそうだった。むしろおつりがくる。
黙って話を聞いていた俺の様子を見て、メディアさんは眉毛を下げて、やっぱあれかなと付け足した。
「無理やり連れてきちゃったけど、やっぱ命がけは怖いよなあ、おっさん戦闘経験なさそうだし」
「ま、まあな」
アトラススーツを着れば大体の事は何とかなるだろうが。
「でも仕事がないのは事実だ、どうする? 命張らずに無視せず、頑張って街中で仕事探してみてもいいが」
「いや、やるよ」
あまりの即答にメディアさんは流石に口をぽかんと開ける。
自分で連れてきておいてその反応は悲しいじゃないか。
「あ、ああそうか、簡単なやつなら、確かにある。犬探しに猫探し、果ては畑の手伝いまでありやがる。恐ろしく安いがな」
どうやら俺がやりやすい仕事があると目星をつけて即答したと受け取ったようだ。
確かにこんなくたびれたおっさんが、即答するんだから、命がかからない仕事を探していると思われても仕方がない。
でも命を掛けずに楽な仕事を目的に冒険者を選んだと思われるのも、なんか嫌なので、俺はつい口に出してしまった。
「今、一番でかい仕事をくれ、すぐ終わらせてくるよ」
これにはシエロもにやにやとメディアさんを見つめていた。
社畜から最強冒険者へ~おっさんは【対異世界型パワードスーツ使い】として魔女と生活したり冒険しつつ、チート武装とAIサポートで魔術を追放〜聖剣騎士に今更戻ってきてと言われてももう遅い~ ひなの ねね🌸カクヨムコン初参加🌸 @takasekowane
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