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「清治さん・多英子さん、あけまして、おめでとうございます」

「お、おー! 小川さん……はいね、こちらこそ、本年もよろしくお願いします」

 松の内が明けた翌日、(期末試験の練習や勉強等で)今年最初(かつ一二月中旬以来)の潮湯バイトを、私は通りで、町内会で用意された門松を片づける楠本夫妻に、邂逅一番、新年の挨拶を交わした。

「いやぁ、しかし聞いたよ。まさか、本当に、来年の春から京都の銭湯で働くことが決まっただなんてねぇ。いやはや、小川さんの、行動力もそうだけどさ、銭湯で働くことに対する思いの強さ、改めて思い知りました」

「いえ、その節は、というか清治さんが持ち掛けてくれなければ、そもそも始まってすらいなかったです」

 作業用ジャンパーを着こなし、見直したように顎をさする清治さんに、私は改めてべこんと頭を下げた。

「でもさ、曽我部さんもそうだけど、こうやって若い子たちが、銭湯業界を盛り上げようだなんて、まだまだ世の中捨てたもんじゃないねぇ。ねぇ、うちもさ、今年、『三島湯』みたく、何かやってみない?」

 表に貼られた一枚のチラシを指し示す多英子さんに、私は「三島湯?」と掲示板へと近づく。

『番頭兼絵描き永沼美香監修、新春、三島湯の浴槽壁にお絵描きしてみよう!』

 そこには不器用な笑みを浮かべる彼女の写真とともに、子供たちがアクリル絵の具で真っ白な壁画シートに絵を描く(恐らく本人が描いたであろう)イラストがデザインされていた。

「まあ、三島湯さんも、美香ちゃんがメディアに取り上げられるようになってから、一層若者が集まるようになったからねぇ。いや、それが直接じゃないにしてもさ、小川さんがいるうちに、近いうちに何か一つ、イベントでもやってみるかい?」

 既に門松を地域の回収所へと移動し、楽観した表情を浮かべる清治さんに、私は内心ようやくかと息を吐いた。

 常連さん以外も呼びたいと言いながら、清治さんはイベント開催には随分消極的であった。以前、それとなく打診した折も、

『ほら浴場組合でも、ゆず湯やボンタン湯やるからさ。それ繋がりでいいじゃん』

 そう言いながら、やんわりと断られた。それでも去年の一一月頃だか、美香さんがSNSきっかけでメディアに取り上げられ、急に三島湯が盛り上がりだした途端、彼は羨ましそうにイベント開催を〝暗に〟打診してくるようになったのだ。

 とはいえ、私主催では初の銭湯イベント、やりたい企画は当然にだってある。ただし、

「まぁ……焦るものでもないですし、開催はするにしても、ぼちぼち決めていきましょう。今日清治さんから、イベントOKを正式にいただけただけでも、十分収穫です」

 そのまま下足所を通り抜け、フロントに足を踏み込むと、

「正式にいただけたって……わしは新しい試みはどんどん挑戦しなさいって、前から言っていたろぉ」

 手に息を吹きかけながら、ぼそぼそと呟き入ってくる清治さんに、多英子さんは「まぁまぁ」と彼をなだめた後、

「でも、正直、小川さんがレギュラーバイトになってくれてから、前より一層、若い子や外の人が訪れてくれるようになった感はあるよ。リラクゼーションドリンクや高性能のドライヤーの導入とか、大好評じゃん」

 と、心底充実した顔を浮かべたまま、彼女にとっての一日の始まりのルーティーンである粉洗剤を、ランドリーへと取りに向かった。

 そうだ。新年初めての潮湯、まずは何よりも今日訪れるお客さんに、幸せなひと時を作り出して上げよう。

「もう既に火入れは、始めていますか?」

 番台の後ろに荷物をしまい込みながら、清治さんに問いかけると、彼は「まだよ、昨日は大量の薪使ったから、灰落としからだ」とニヤリと口角を上げる。

「分かりました、じゃあ浴槽の清掃を終えた後」

 今年初お披露目の前掛けをしめると、手をすり合わせながら、男湯へと向かいかける。直前、私は思い出したようにスマホを取り出し、

『今日も寒いですね! 本日も営業に向けて、準備を始めます。改めて今年もよろしくお願いします!!@小川』

 新年の挨拶ツイートを済ませると、急ぎ脱衣所へと駆けた。         

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