第96話 米と発酵への進撃、開始!

「何の成果も得られませんでした!」


異世界生活15日目の朝。全員がリビングに集まっている所で、チヒロさんが開口一番に大声を上げた。


「料理神...、うるさい。五神権で口を縫い合わせるぞ!」


ギロリとチヒロさんを睨み付けるのはメティス姉。昨日、新たに出来た僕の義姉だ。


「まぁまぁ、チヒロ。メティス様が朝に弱い事はお前も知っているだろうから、小声でな?」


汗をダラダラに掻きながらチヒロさんとメティス姉の機嫌取りをするのはイードラ。造形神だ。


「申し訳ありません、イードラ様、メティス様。私の白飯のお供を作るという挑戦しめい、それがまさか最初の段階で積むとは思わなかったんです!」


「「「「「「お、おう...。」」」」」」


メティス姉以外の女神がチヒロさんの魂の叫びを聞いてたじろぐ。そこからのチヒロさんは凄かった。


・白飯のお供を作るには、この世界で既出の調味料では到底無理であること。


・その肝心の調味料が塩、砂糖、胡椒、唐辛子のような一次的な素材のみしか現状、世界には存在しないこと。


・3階の本に書かれていた醤油、味噌、みりんのような発酵調味料が存在しないこと。


・このままでは牛肉のしぐれ煮のような醤油や味噌を用いた料理や、漬物という簡単な白飯のお供すら作れないこと。


上記4つについて、力説しまくるチヒロさんにその場にいる全員が圧倒した。


「なので、私は今日から調味料作りの方に取りかかることを穀王に進言します。この『エプタ』の特産品として、発酵産物をどうか視野に!」


ち、チヒロさんが燃えている。ここまで圧倒されては、頷くことしか僕は出来なかった。ちなみに朝は、聖国に行く前に作り置きした、創造魔法産の弁当を食べました。なお、チヒロさんが燃えていた裏側に


もう二度と乗り物に乗るような冒険は嫌だ


という理由があることは誰も知らない。


◇◇◇


(ILLRO視点)


とある3人はILLROとともに、早朝の田畑へと集合していた。


「よく考えて作りましたね、セカンド米およびサード米。のうぎょ...ではありませんでしたね。ILLRO会長があなた達の頑張りをお褒めしましょう。」


ウフフフと目の前に広がる聖地たはたを見つめる緑色の会長。その後ろでは、既に2000人に達しようとする信者メンバー達の姿があった。


「さぁ、者共。今から我々ILLROが待ちに待った瞬間が目の前で起こります。これぞまさしく奇跡!全員、脳裏に焼き付けるのです!米星!」


「「「「「米星!」」」」」


例の挨拶を行うとともに、会長は<新種創造>により大量の黄金の粒を生み出していく。


「「「「「うおおおお!!!」」」」」


「神よ。これこそ神の御技よ。」


「黄金色!あれだけで年収は稼げそうよ!」


「素晴らしい。素晴らしすぎますわ。」


大量の黄金の粒。これこそ、『エプタ』の国の象徴の元となる種籾である。


「さて、今日から我々ILLROはこれを植える...のではなく、予措を行う。この聖典を読みし信者あなた達は、この意味を答えられますね?」


すると、最前列にいる一人の女性が手を上げる。


「はい。より良い物を選んで発芽しやすくするために行う儀式で、選種 、 消毒 、浸種 、 催芽の4段階を行うというものですね。」


「見事だ、フィフス米。聖国からの増援、誠に感謝するぞ。」


「恐縮です!」


そう。ここには、あのファースト米に負けないレベルの聖国の狂信者とその愉快な仲間達も駆けつけていたのだ。ILLRO独自の移動ルートで...。


「では、大いなる一歩を我々ILLROは歩き出しましょう。オール・ハイル・イチロウ!」


「「「「「「オール・ハイル・イチロウ!」」」」」


ILLROの予措宗教活動はこうして今日も行われていく。そしてILLROの本気マックスにより田植えまで終えた後、会長のとある仕掛けにより、明日には田畑が幻想的な光景へと様変わりすることとなる。


◇◇◇


(チヒロ、スイカ、イードラ視点)


ここはスイカが根城とする地下1階。ここで、例のミッションが始動していた。


「うっしゃ、いくぜ。捻れる神槌! 唸れ 、『ミョルニル』!!」


槌に幾重の魔法陣が展開されると、目の前にある農業神産の天然木に向かって槌を振る。これにより最上級造形術が発動し、天然木が次々に加工されていく。


そして出来上がるは、10個の巨大なオーク樽と5個の巨大なタンク。これこそ、チヒロやスイカの発酵調味料と酒を製造する場となっていくのだ。


「へー!いいタンクと樽じゃん。これならいいお酒が造れるぜ!」


スイカはタンクや樽を見て大興奮し、早速、農業神に創って貰った大量の黒ブドウを手に取る。彼女はそれを<酒造>と<金剛力>により、忽ちに果醪へと変えていき、タンクへとぶっ込んでいく。


「勉強させて貰いますよ、スイカさん。」


チヒロはスイカの酒造の様子を事細かに見て、温度、湿度、空気のような環境条件や留意点を中心とした一つ一つを記録していく。これは、スイカのを学習し、今後の調味料作りの参考にするためである。


これが後に、世界最高品と評される『エプタ』産の酒の始まりであることになるとは、まだ誰も知る由もない。


ーーー


次回、『女神の家』サイド。

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