第58話 男装の真意と愛の暴走機関車
イ、イ、イチロウです。ぼ、ぼ、僕は今、扉の前にい、います。
「イチロウ様。リラックスして下さい。そして、肩の力を抜いて下さい。」
メルアさんの言われたとおりに、スゥ、ハァ、スゥ、ハァ。駄目だ、全然落ち着くことが出来ない。すると、
チュッ
!?
いきなりキスされる。さらに、舌で口内を舐られていき、唇が離れると銀色のアーチがかかる。うわ、エッッッッ。
「落ち着いていただけたでしょうか?」
うん。確かに謁見に対する緊張は無くなったよ。でも、今は別の意味でドキドキしているよ。
僕は意を決して、中へと入る。目の前には、アウラ、シャルティア、女神達、黄昏色の髪をした大人の女性。そして、何故か床に倒れているギルアと貴族達。
え?何が起こったの?
◇◇◇
(イチロウがヴィシュヌから重すぎる愛を囁かれ、こってりと絞り取られている頃)
ツカネ達女神達はアウラに詰問していた。現在は謁見の間において、2人の王女達と女神達が固まっていて、ギルアとその妻が遠くでその様子を見ている。
「それで、どうしてそんな男装をしているのかなー?」
「もしかして私達に女だと感づかれないようにしたとか?」
「妾は途中から感づいておったがのう。お主が女であることを。」
「取りあえず、説明するよ。ぼくはプロスペリア王国第一王女のアウラ・デ・プロスペリア。そこにいるシャルティアの実姉だよ。」
「お姉様。いつも思うのですが、どうしてドレスではなくタキシードを着ているのですか!」
どうやら女神達と同じ事を実の妹も思っているようだった。
「ぼくはね。勇者と魔王の出てくる冒険譚が大好きなんだ。特に、勇者が姫を守るために力を振るうシーンに心を打たれてね。それに、女の子の恰好とかすると、王家に縛られているみたいな感じがするから。」
少し俯くアウラだが、一瞬でケロッとしてさらに説明を続ける。
「だからこそ、聖剣に選ばれたのを機に、男装して見た目から王家のしがらみからの脱却をし、自分の願望に忠実かつ積極的に行動するようにしようと思ったのさ。まあ、おかげでイチロウという姫を見つけることが出来たんだけどね。」
最後のはうっとりした顔に変わった顔になった男装勇者様。
「で、ですが、私はイチロウ様にファーストキスを捧げました。お姉様こそ、どうなんですか?」
「うん?ああ、勿論さ。囚われて眠る姫の唇を勇者が奪うのは定番中の定番。捧げるに決まっているじゃないか!」
『何を当たり前なことを』とばかりに堂々と答えるアウラ。その余りの潔さに妹どころか女神達まで思わずたじろいでしまう。
「ああ、ちなみにぼくは何番目でも構わないよ。むしろ、姫の守護者みたいなポジションで構わないさ。」
そこに、追い打ちを掛けるようにウインクして語る勇者様。もうこれ以上に追求出来る点は...思いつかない。
男装についてのツッコミはこれで論破され、ファーストキスや婚約のことを問い詰めるとなるとシャルティアについても当てはまってしまう。だからこそ、婚約の序列からアプローチするも先に完封され、遂にはアウラという愛の暴走機関車を止めることは誰にも出来なくなってしまった。
「うむう...流石に2人同時は...せめてどちらかだけでも」
耐えられなくなった父親のギルアは、せめて普通に戻そうとする。彼はもう、イチロウの実力を認めており、娘のどちらかと婚約させることはとっくに視野に入れていた。
「「プロスペリア王国民法第55条。王家のファーストキスを奪いし者は王家の潔きを汚した罪として、婚約の儀を交わすべし。」」
二人の王女様が息ぴったりに宣言する。
「それに、お父様も言ったではありませんか。」
「『攻め時にはガンガン攻め、守り時にはガッチリと守れ』と。だからぼく達は」
「「イチロウ様(くん)のガードの弱まった所を攻めていったのではありませんか。」」ドンッ!
姉妹揃って、正面から自分たちの気持ちを表明したアウラとシャルティア。
「オホホホ。これはあなたの完敗ですわよ。」
すると、黄昏色の髪色の女性が笑いながら話しかける。この女性は、ギルアの妻のアスタ・デ・プロスペリアでアウラとシャルティアの母である。この御方、今はドレスを着用しているものの、その下には
『All of me for the sake of ICHIRO』(私の全てはイチロウ様のために)
と書かれたあのシャツを着ていた。そう。彼女は既に、シャルティアとメルアの手にとってILLROの
「アウラ、シャルティア。これは、あなた達の希望なのでしょう。大丈夫です。ギルアの方は最悪、私の方から説得しておきますので。」
「い、いやでも。」
「<MP吸収>。」
「うごおおお。」
夢魔であるアスタによりMPのほとんどを吸収され、ギルアは気絶した。
「さ、さすがです。お母様。」
シャルティアは感心した。
「シャルティアの魔力問題の解決、アウラとの『奈落の底』の踏破、英雄王に打ち勝つ戦闘力。これらの成果や力を結集させた男性が果たしてこの世界に居るでしょうか?私はイチロウさんしかいないと思うわ。だから2人共、逃しちゃ駄目ですからね。」
「「はい。」」
母の偉大なる言葉を受け、二人の王女様は肯定を示した。だが、反対する者は当然いるようで。
「「「「「な、なりませんぞ。そんな何処の馬の骨とも分からない平民などと婚約なんぞ。」」」」」
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