第51話 国王様が勝手すぎる件

僕達『女神の家』は現在、王城に向かって歩を進めている。


天敵を連れて。


「驚いたよ、姫。まさかあの騎士団を倒しちゃうなんて。」


何処からか嗅ぎつけた勇者様ことアウラ。合って直ぐに手の甲にキスされてから現在、一度も反撃できる間もなく手玉に取られています。まだアウラの正体が女だと気づいていないツカネ・アカネ姉妹は特に気にしていないが、シラユキはとうに気づいているみたいで。


「お主。少々馴れ馴れしいのではないかのぅ。」


目を細めて睨み付けている。どうしてこの二人はこうも険悪になりやすいのかなぁ。


「それでそれで。ボク達はどうして反逆罪になっているのかなー?勇者として何か知っているー?」


至極真っ当な質問をするツカネ。僕としては、あの騎士団が100%関わっていると思うけどね。


「ぼくとしても詳細は分からないけどね。分かっていることは、本当はぼくが今朝、君達を王城に連れていく予定であった事と、イチロウくんの実力を見てみたいという事くらいで。」


どちらにしろ今日は王城に呼び出しがかかっていたと。ハァァァ、面倒くさい。


「後、お父様が『婚約者は最低限、俺を倒せる奴じゃないと駄目だ。』と言って聞かなくてね。だからこれはぼくにとっては渡りに船ってやつだから姫には是非、勝ってほしい。」


耳元でボソッと告げる女勇者さん。それを聞いてシラユキはケッと睨みを強くした。どうどう。


そんな緊張感の欠片の無いペースで、僕達は王城の門に辿り着きました。


「おお。とうとう来たか、『女神の家』。アウラよ。道案内ご苦労だったな。」


ガハハハと豪快に笑う黄色肌をした背の高い男。その頭には一本角が生えていて、でっかい長刀を携えている。あれこそがアウラの鑑定で出てきた金剛鬼族だろう。重厚なさま、威厳さえある。


その傍らでは、頭を抱えている2人の男性の姿があった。ああ、分かる。分かるぞ。お前達の気持ち。振り回される者でしか分からないその苦労心を。あのアウラですら、苦笑いを浮かべている。


「そうです。僕達が『女神の家』です。そして、あなたがこの国の国王様ですか?」


取りあえず、敵に舐められないよう返事をする。女神達は既に、殺気をダダ漏れにして睨み付けている。


「いかにも。俺がこの国の国王、ギルア・デ・プロスペリアご本人様だ。今回は、渡りに船と騎士団の報告に乗じてお前達を勝手に反逆罪にしたことを詫びるぜ。何せ、我が娘を打ち負かした面白ぇ野郎が出てきたからよ。」


反逆罪にしたのはあんたの勝手かい。内心でツッコミを入れたが、女神達はその国王様に対して恐れることもなく反撃する。


「ほーう。つまりは、ただボク達と喧嘩するためだけにいっくんに身に覚えの無い罪を着させたと。」


「お兄ちゃんと戦いたいだけに周りを巻き込んだと。」


「何と勝手な奴なのじゃ。妾はああはなりたくないのう。」


この言葉を聞いて、大半の人がこう反応すると思う。


おまえがいうな


と。すると、王様の隣にいた2人の男性が頭を下げてくる。


「『女神の家』の皆様、本当に申し訳ありません。本当は勇者様が直々に出迎えるはずなのに、騎士団の馬鹿共が『第一王女様がわざわざ出向かずとも』と横やりを入れたせいで。」


「うちの馬鹿とギルアが俺の目の届かない所で馬鹿やってすまねぇ。いや、本当に本当にすまねぇ。」


ローブを着た男、鎧を身につけた男の順に謝罪の言葉をかけてくる。その顔からは純粋な謝意が込められていた。今度3人で飲みに行こうな。


「ほーう。アウラくぅーん。後で、ボクとO・HA・NA・SHIしようかー。」


「きっちりと説明して貰いますからね。」


さりげなく勇者の正体が告げられて、ツカネ・アカネ姉妹はアウラの方に詰め寄ってくる。目が笑っていない。


「ごほん。さて、挨拶も済んだところでお前達を呼びつけた理由を話そうか。」


ギルアが長刀を抜き、その切っ先を僕達の方に向けてくる。そしてニヤッと笑って高らかに宣戦布告をする。


「俺達と戦え!俺はお前達の実力というものを見てみたい!そして願わくは、俺の退屈しのぎになってくれ!」


うん。明らかに後半が本音だよね。頭に鈴をつけた眼帯の死神がこの台詞を言いそうだ。


「ウフフフ。いっくん、受けちゃおうよ。ボクも丁度、試したい技とかあるし。」


「ちょっとお灸を据えましょう、お兄ちゃん。」


「妾は先ほどの戦いに参加してなかったからのう。腹ごなしの運動じゃ。」


どうやらうちの女神達も殺る気Maxのようだ。だからよぉ、止まるんじゃねぇぞ!


◇◇◇


僕達は現在、大きな大きな闘技場にやって来ております。観客達は一定の距離を開け、砂埃対策として<魔法障壁>が張られています。未知のウイルスもこれでバッチリと対策が出来そうだ。


「ただ今より、プロスペリア王国主催の特別試合を開催します。司会は私ことミミルがお送りします。」


会場は歓声で盛り上がった。ただ、その一角で


イチロウ様♡LOVE♡LOVE♡RICE♡組織


という変な垂れ幕が見えているが、僕達は向かい側にいるプロスペリア組に目を向けることにした。

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