第38話 ランクアップ試験 勇者の正体

(シラユキ視点)


妾は目の前の出来事に放心していた。婿殿達の足元が光ったと思ったら一瞬で消えてしまったからだ。


誰じゃ?何処の有象無象が妾の婿殿を消したのじゃ!


「成功だ。勇者を奈落の底の最下層に転移させることに成功したぞ。」


「ああ、これであの方に良い成果を持っていくことが出来るぞ。邪魔者である勇者を始末したとな!」


あやつらは、ツカネとアカネにボロボロに負けた奴らか!そうか、あやつらが婿殿を!


「お主達。少し面を貸して貰おうかのう。」


勇者を奈落の底というダンジョンに転移させた2人の犯人。それは、決して触れてはならないイチロウタブーを犯してしまったために、竜神の怒りを買うこととなった。


◇◇◇


僕達は現在、黒い壁に囲まれた通路にいた。シラユキは、いないか。どうやら僕とアウラだけがここに転移されたようだ。


僕は心配になる。あれを見せられちゃ、犯人がシラユキにどう料理されるかなんて想像もつかないよ。


「イチロウくん。どうやらここは奈落の底というダンジョン内みたいだ。この壁を僕は何度も見たことがある。」


ダンジョン名『奈落の底』。プロスペリア王国の保有するダンジョンの中でも最難易度を誇るダンジョンで、最下層には強力なラストモンスターが存在する。そのモンスターを討伐できたのは、歴史上1人だけであるらしい。


「取りあえず、出口を見つけよう。上層に上がれば何処かに繋がっているはず」


「無理だよ。おそらくここは最下層だ。目の前にでっかい紫の扉があるだろう。あれは、ラストモンスター特有の扉で、地上に出るにはここのラストモンスターを倒すしか。」


絶望の表情を浮かべるアウラ。そもそもここのラストモンスターとはどういった魔物だろうか?僕は扉越しから鑑定してみる。


プラチナ・キングドラゴン

HP 9,000/9,000

MP 9,000/9,000

攻撃力 9,000

防御力 9,000

白銀の体をしているドラゴン。ダイヤモンドのように硬く、爪攻撃とプラチナブレスで攻撃してくる。全ての部位が素材として取引されている。討伐部位は角。


わあ。レベル90の域に片足を突っ込んでる。そりゃ、勇者であるアウラには荷が重い相手だよなぁ。でも、コイツを討伐しない限りは地上に帰れないし。やるしかないよなぁ。それに、全ての部位が取引されるんだ。金の匂いがするだろう?


僕は遠慮なく扉の方に手を掛けるが、後ろから抱き止められる。


ムニュウッ


ああ、背中に2が伝わって...くる...?


「これはぼくの責任だ。君を巻き込んでしまったぼくの。だから、姫である君は勇者であるぼくが、ぼくが守らないと。」


腕にさらに力がこもっていき、あの感触がよりダイレクトに伝わってくる。これで確信した。確信してしまった。アウラは、だ。


「アウラ。この際だから正直に話して欲しい。『ぼくの責任』、『君を巻き込んでしまった』とはどういうことだ?」


少しの間、沈黙が走る。そして、彼の、いや、の口からその正体が語られる。


「ぼくは勇者兼プロスペリア王国第一王女のアウラ・デ・プロスペリア。ぼく達をここに転移させたのはおそらくぼくを邪魔に思ったどこかの貴族の仕業だろう。そいつらの狙いはぼくの妹のシャルティアだ。彼女は今世紀最大の美貌を持つと称されていて、その婚約者を狙う貴族が後を絶たない。」


あ、ハイ。


「だからぼくは、彼女に邪な思いを抱いてアプローチをする者らをメルアと共に排除し続けてきたんだ。恨まれて当然さ。それでも、彼女は訳ありとはいえ、ぼくの大切な妹なんだ。守って当然だし、いい殿方を見つけて幸せになって欲しいじゃないか。」


うん、知ってる。昨日、その件の問題を解決してきたし。


「あ、そうだ。いいことを思いついたよ。」


すると、スルッと僕の手を引っ張り、黄金色の瞳が僕の唇を捕らえると、勢いよく唇を押しつけ、逆に僕を押し倒してきた。ああ、やっぱり姉妹だ。キスまでの流れが大体一緒だよ。


「プロスペリア王国民法第55条。王家のファーストキスを奪いし者は王家の潔きを汚した罪として、婚約の儀を交わすべし。イチロウくんは本当に不意打ちに弱いね。試合前もあっさりとぼくに体を許してしまったし。」


細い指で僕の頬をタッチしてくるアウラさん。今まで男だと思っていたのが急に女だと思い知らされた上に、グイグイと攻められてしまうと頭が働かなくなる。完全に相手のペースに飲まれてしまっている。


正直に言う。彼女は今まで会ってきたどの女性よりも、僕のガードを崩しに掛かるのがうまい。もし恋愛勝負を挑まれたら、終始手玉に取られる系の感じだ。こ、このままじゃ今後、先が思いやられる。何か弱点はないのか。鑑定。


アウラ・デ・プロスペリア 18歳 女

レベル:80

種族:夢魔鬼族(夢魔族と金剛鬼族のハーフ)

二つ名:勇者、残光、プロスペリア王国第一王女

[能力値]

HP:8,000/8,000

MP:6,500/8,000

攻撃力:8,000

防御力:8,000

[スキル]

<火属性魔法 LV.10>、<水属性魔法 LV.10>、<風属性魔法 LV.10>、<最上級光属性魔法 LV.5>、<HP自動回復>、<MP吸収>、<剛力>、<剣術>、<社交>、<交渉術>、<礼儀>、<作法>、<勇敢>

[固有スキル]

<魔神の加護>、<勇者>、<プロスペリアの血統>

[好感度]

故障/100(イチロウへの愛が深すぎて数値化出来ません)


好感度が故障...だと...。マジモンの天敵じゃないか。スカウターを装着したら間違いなくぶっ壊れるぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る