第36話 ランクアップ試験 終焉を司りし者とダンジョン試験

人々は見た...黒き長羽織を身に纏った男の姿を。人々は見た...黒き剣を携えし理不尽の権化を。


ラグナロクを解放レリーズすると、周囲に漂う無数の魔力が彼に集まり、纏う。ラグナロクは文字通り、姿を見せたが最後、文字通り戦いを終わらせる。その能力は、剣を持つ者の魔力だけでなく、その周囲に漂う魔力をも纏って武器にするもので、その範囲はこの世界全体となる。


「すごいね。その剣。ぼくは神話の一端をこの目で見ているのかな?」


「その認識で間違いないよ。それと、頑張って0.1 %くらいに抑えるから死なないようにしてくれよ。」


周囲に漂う水属性の魔力をかき集め、そこに僕の魔力をドッキングさせる。すると、剣から巨大な水の蛇が形成され、いつでも飲みつくさんと暴れ出した。


「<光熱分解フォトン・ザ・モルシス>最大。」


アウラが全力を出して、突進してくる。だが、この水の蛇の暴走は僕以外では決して止まらない。


「神代流魔剣術 終焉の巻 世界を締め上げる蛇ヨルムンガルド。」


勇敢に特攻した勇者アウラ。その健闘も虚しく、終焉を告げる者イチロウが作り出した蛇に呑み込まれ、大きな津波を発生させた。


これが後に、イチロウの冒険者としての二つ名である『終焉を司りし者』を与えられるきっかけとなる。


◇◇◇


はーいどうもイチロウでーす。僕達は現在、ダンジョンへとやって来ておりまーす。来たぞ来たぞ。異世界転生者なら一度は言っておきたい観光スポット『ダンジョン』。


僕達の先達はこんなことを言っていた。『暴れる魔物モンスターあればとことんぶちのめし、輝くお宝あれば無理矢理独り占め。 大胆不敵、電光石火。勝利は僕達のためにある!』と。


ドンッ!


すると僕はいきなり壁ドンをされ、更に顎クイされる。そのお相手は勇者ことアウラである。


「君は今、邪なことを考えていたでしょ。」


このダンジョン試験では、1人1審査員のスタイルで行われ、受験者ごとに別のダンジョンで試験が執り行われることになっている。つまりここにはツカネやアカネはおらず、アウラとの2人きりである。


「おっと、妾も忘れて貰ってはならぬぞ。」


失礼。シラユキを入れて3人だ。


「わぁ。シラユキくんはモフモフだねぇ。尻尾触っても」


バシンッ


不用意に触ろうとするアウラをシラユキは尻尾で薙ぎ払った。すっごい音がしたぞ。


「ならぬ。妾の尻尾は婿殿しか触ってはいけないのじゃ。お主が触れる道理はない。」


「う...それは残念だ。なら、早速試験を始めよう。冒険者の基本を意識して、下層へと進もう。」


僕達3人は目の前に広がるダンジョンへと歩を進めていった。


◇◇◇


(???視点)


「入ったか?」


「ああ、入っていったさ。あのB級野郎も一緒にな。」


「良し。ならば実行に移すぞ。慎重にかつ確実にだ。」


2人の影はダンジョンの前に立っていた。


◇◇◇


冒険者の基本は次の4つである。


1.依頼内容を吟味するべし。


2.索敵をするべし。


3.罠がないかを確認し、あったら回避するか破壊するべし。


4.魔物はなるべく傷つけないように倒すべし。


上記は全てチヒロさんという先輩冒険者に予習講座を受けて学んだことであり、今回は「3階層に潜む、ファイアリザードマンの討伐部位である尻尾の角をとるべし。」というのが課題となっている。


つまり、1をしっかり実行とすると、「3階層までは余計な戦闘をせずに進んで体力と魔力を温存し、ファイアリザードマンを討伐しつつ、さらに帰りのための手段も準備しておく。」というのが正解だ。


『被害を最小限にしながら目的を達成する』。それが、冒険者の基本の根底であるのだ。


「シラユキ。空からの索敵を頼む。魔物が見つかったら合図をし、魔物のいない通路があったら優先的に知らせてくれ。」


「分かったのじゃ。」


索敵面は彼女に任せ、僕は罠を警戒しながら進んでいくことにする。


1階層は罠もなく、出てくる魔物はスライムやゴブリンなどの低級魔物だった。戦っても良いのだが、シラユキにより魔物の発生しない道を進むことで戦闘を1回もせずに僕達は2階層へと辿り着いた。アウラがうんうんと頷いている様子から、僕の立ち回りが適切なものだと確認できる。


僕はこんな感じで、2階層へと辿り着いたが、アカネならともかくツカネの方が若干心配である。思いっきり、魔法でごり押しをしていなければいいのだけど。


◇◇◇


(アカネ視点)


「で、では試験を開始します。基本を守りながら、課題を達成していって下さい。」


アカネの担当はS級の女性冒険者くろうにんだった。


「<最上級探索>。<付与エンチャント:ウインドアロー>。」


アカネは1階層から探索により魔物の気配を探知し、そこを矢で狙っていった。


「いきなり何をしているんですか?アカネさん。」


アカネの突然の行動に驚いた担当冒険者は、アカネへと質問する。


「?ただ魔物の気配を探って、安全な所から仕留めただけですよ?」


それが当然とばかりに、淡々と答えるアカネ。確かにそれなら魔物に襲われる危険はないだろう。だが、


「もし冒険者さんがいて、被弾してしまったらどうするんですか!」


他の冒険者を巻き込んでしまう危険性がそこにはあった。


◇◇◇


(ツカネ視点)


目の前には黒焦げになったゴブリンやスライム。魔法神である彼女は出会い頭に<ファイアボール>をぶつけ、担当冒険者と自分に<魔力障壁>を展開しながら罠や魔物をお構いなく進むというごり押しプレイをしていた。


「あ。2階層だ。最短距離で進んできたから、早く辿り着いたよ。なかなかのファインプレイだよね、ね?」


「ハ...ハイ。ソウデスネー。」


この2柱の狂戦士めがみ達はイチロウのいない所では、やりたい放題であり、十中八九、イチロウの悪い予感は完全に的中していたのだった。

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