第35話 ランクアップ試験 真名解放

「ぼく、君が好きだ!この戦いが終わったら、ぼくのプリンセスになって欲しい。」


会場中を薔薇の花が咲き乱れる。僕はアウラの目と目が逢う瞬間、好きだと気付...くわけないだろう。丁重にお断りする!


「勇者様。後がつかえているので、そろそろ始めて貰ってもよろしいでしょうか?」


試験官、ナイスだぞ。この状況を打開してくれた。


「それじゃ、また後で。イチロウくん。」


ウインクをして、戦いの準備を行う勇者。対して、僕はシラユキに話しかける。


「シラユキ。悪いけど、ここからは激しい戦いになりそうだ。何処かに避難してくれないか?」


「うむ...婿殿。また何か試したいことができたな?」


「さーて、それはどうかな?まぁ少なくとも、<竜神の夫>で得た力は試すつもりだよ。」


次第に白い顔を朱に染めていくシラユキ。


「そ、そうか。なら、何も言うまい。妾の力、存分に振るうが良いぞ。」


シラユキは肩から飛翔し、ツカネ達の元に戻っていく。そして、シラユキが着地したと同時に、美形神ぼくvs勇者アウラの戦いが始まった。先に動いたのはアウラ。


「それじゃ、行くよ。ぼくのスピードについてこられるかな?」


剣が光り出し、白銀色のオーラをその身に纏うと、一瞬で消えた。


「出たぞ。勇者様の聖剣『ハルム』の光の力。」


「いっけぇ。あの新人野郎に『残光』の力を見せてやれ。」


僕はすかさず<見聞>を発動し、その姿を追う。速いな。だが、スピードについてこられなくとも、恐れることは何もない。


「<魔装:ドラゴン>。」


<竜神の夫>により獲得した<最上級竜魔法>。発動すると、剣の周りに今度は白い稲妻を伴った白炎が発生し、周囲を明るくする。これは、シラユキのホワイトゴッドブレス!?


僕は<見聞>でアウラの動きに合わせて、剣を振るい、しっかりと捕らえる。


「っ。驚いたよ。まさかぼくを捕らえることができるなんて。でも、まだまだスピードは上がるよ。君はどこまでついてこられるかな?」


そこからは超スピードの剣戟が繰り広げられていた。二人の姿は女神達以外の者には決して見えず、ただ光の残光と白炎の2つのみが見えていた。そして、レベル差が物を言うのか徐々に、アウラの方が押されていく。


「む。これはぼくも出し惜しみしてはいられないね。聖剣『ハルバード』。君の力を解放するよ。<解放レリーズ光熱分解フォトン・ザ・モルシス。」


聖剣『ハルム』。この世界の物ではない鉱物ゴッドオリハルコンで創られたとされる剣で、この武器に認められた者が勇者に選ばれる。そして、その剣の真骨頂は内包された光の力。つまり、<最上級光属性魔法>にある。


聖剣を白い光が纏い、さらに熱を帯びているのか熱気がここまで届いてくる。


「構えて、イチロウくん。君が融けてしまうのは、ぼくも嫌だからさ。」


切っ先を地面に突き立てると、そこがドロドロと融解する。これは一太刀浴びれば、ただでは済まさないぞ。


「神代流魔剣術 竜の巻 断罪の白炎龍。」


竜形態のシラユキを模した巨大な白炎をお見舞いするが、


「甘いよ。」


聖剣を振るうことで、魔法が切断される。


「ぼくの光熱分解フォトン・ザ・モルシスは魔法も含めた全ての物を切り裂くことが出来る。だからこそ、大昔の勇者はこの武器で魔王を討伐できたとも言われていてね。まぁ、これを発動させた今のぼくは本気の本気ってこと。本当ならこの時点で合格を与えてもいいんだけど、君はまだまだ力を隠しているみたいだし、もう少しこの舞踏会を楽しもう。」


アウラとの戦いが再び始まった。今度は剣に触れないよう立ち回り、剣と剣を交わらせていく。幸い、最上級魔法を帯びた剣ならば対処は可能で、鍔競り合いをしても融けることはなかった。まぁ、<不壊>があるからそもそも武器破壊される心配はないけど。


「神代流魔剣術 竜の巻 贖罪の鎌鼬カマイタチ。」


「<光の輝きプリズム・タクト>。」


僕の<爪撃>を魔力にのせて放った複数の斬撃とアウラの<最上級光魔法>による光の散弾がぶつかり合い、会場はどんどん破壊されていく。


「うわあああ、もう滅茶苦茶だあの二人。」


「俺達のことはお構いなしかよ、あの化け物二人は。」


無論、会場はパニック。


「二人とも。もう勝負は...うわあああ。」


試験官すら止めることもできない。


「いっくん、楽しそう。すっごい笑顔を浮かべているよー。」


「お兄ちゃんはなんだかんだ言って、戦いを楽しんじゃってますよね。」


「そこじゃそこじゃ。懐に潜り込むのじゃ。」


ただ、女神達は野球観戦のように楽しんでいるけれど。


「ハァ...ハァ。そろそろ宴もたけなわ。次の一撃で最後にしよう、イチロウくん。」


「そうだね。そろそろ終わらせないと次の試験に移れないしな。」


僕は剣の切っ先をアウラに向け、左手を右腕に添える。これから出すのは、戦いを終わらせる合図。僕はゴッドオリハルコンに宿った意志に働きかけ、神剣『ラグナ』の本当の姿を解放レリーズする。その名も


「<真名解放トゥルー・レリーズ
















終焉剣『ラグナロク』>。」


真名解放トゥルー・レリーズ。それは、ゴッドオリハルコンで出来た武器(聖剣や神剣など)において、内包する力を引き出す<解放レリーズ>のさらに上位とされる技で、これにより武器の本当の姿を引き出すことができる。


そして、取得条件は『武器の意志を聞き取ること』であり、僕の場合、魔法試験で聞いた『いいえイチロウ様。私達の喧嘩です!』がそれに該当し、その時に頭に思い浮かんだのがこの、終焉剣『ラグナロク』であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る