第29話 魔神の真意

メルアさんは説明を続ける。


「シャルティア様はこのプロスペリア王家の中で最も色濃く夢魔の性質を母から受け継ぎました。その資質は母を超え始祖に近いとさえ言われているほど。それにより、普通の人間は彼女の姿を見るだけで魅了されます。恐らく、あなた達も見たことがあるでしょう。」


確かに。門の入り口の所で、たくさんの人に囲まれていたが、やはりあれも<魅了>の効果だったか。


「しかし困ったことに、魔力の消費スピードも普通の夢魔よりも速く、食事での魔力補給ではあまり効果は出ませんでした。さらに言えば、無意識のうちに魔力を吸い取ってしまいます。これは普通の夢魔ではスキルとして発動しない限りは起こりえませんが、始祖に近い彼女の場合はごく自然に発動してしまいます。最悪の場合、魔力を一瞬で根こそぎ吸い取るくらいです。この問題が発覚したのは、彼女が5歳の頃。彼女の近くで護衛をしていた兵士の一人がいきなり倒れてしまったことから始まりました。」


これにより、彼女は城の地下に隔離されることになり、その部屋こそがここの『契りの部屋』だったのだ。二度と人的被害のないようにするために。そして、他国との交渉や遠征という名目で、魔物から魔力補給を行うという生活を送ることとなる。つまりは、軽い軟禁生活状態である。


「それで、それとイチロウさんに何の関係があるんでしょうか?」


未だにハイライトオフなチヒロさんは、包丁を高く振りかざしている。チヒロさん。他の3人はもうハイライトを取り戻しているのに、あなたはまだヤンデレ状態なんですね。


「それは今から、2日前のこと。各冒険者ギルドからオールラウンダーが2人出たと聞きました。さらに言えば、1人は黒髪黒瞳のかっこ可愛い絶大の美男子、もう1人は『イチロウの第一婦人』を名乗る者という内容だったため、直ぐにイチロウ様の所在を確認できました。そこで私は、その情報の発信源である『プリペア』に<ワープホール>で赴き、その真偽を確かめに行きました。」


あ、メルアさんもあの町に居たんだ。


「いざ確認すると、目の前でロックキングホーンとレッドエンペラーオーガの2体を相手にしていました。そして、その戦闘からイチロウ様とツカネさんがオールラウンダーであること、さらにイチロウ様がツカネさんから祝福を貰って魔力∞の状態であることが分かったのです。ついでに、ツカネさんとアカネさんのお相手を終えて眠った後のイチロウ様を<ワープホール>で私の元にお連れして、私のハジメテを貰っていただきました。幻想的な夜空の下で夫婦の契りを交わす。まさにロマンチックな一時で、今後忘れることはありません。」


お巡りさーん。誘拐、拉致の現行犯がここにいます。というか、さらっと恐ろしい事実を述べましたよ。チヒロさんとシラユキなんてもう殺意の波動を放出しちゃって抑えがもう効きそうにないよ。理由は恐らく、『イチロウの第三婦人』の称号がサクッと奪われたからであろう。こうなったら、対女神様スキルの一つを解禁しよう。


「<創造魔法:キス術>。」


僕はチヒロさんとシラユキにキスをする。すると、2人とも一瞬でガクッとなり、幸せな顔で痙攣した。


「ア...ヘヘヘ...♡」


「わ、妾の負け...じゃ...♡」


ふっ。イチロウ大勝利。女神様にはいつも振り回されているからな。これくらいは返させてもらうさ。コラコラ、ツカネもアカネも唇をすぼめてないでメルアさんの話を聞こうな。


「話を戻しますが、イチロウ様が魔力∞であることを知った私は、シャルティア様の他国の交渉のスケジュールを操作し、イチロウ様が王都に到着するのと同じタイミングで帰還するよう調整し、イチロウ様とシャルティア様の出会いの場を設けさせて頂きました。そして、夢魔の婚約の儀を成功させ、『婚約回路』をイチロウ様と形成させることで、彼女の問題を解決に導ければ。と思い、今回のイチロウ様拉致計画を企てた次第です。」


そう言い、メルアさんは僕達『女神の家』に向かって深く土下座をした。つまりは、魔神を信仰するこの国のために、魔神自らが影ながらに援助をしたというわけか。うん。これは責められないし、如何にメルアさんがこの国を大切に思っているかが分かってしまう。


「うーん。そういうことなら、今回は見逃してあげようかアカネちゃん。メルア様はただ女神としての責務を全うしただけだしねー。」


「そうですね。この場合、誰にも非はありません。ですが、メルアさん。目的は他にもありましたね。」


メルアさんはギクッとし、観念して口を開いた。


「はい。『夢魔の香』に乗じてイチロウ様と再び交わうことができればと思っていました。」


それを聞き、黒い笑顔を浮かべたツカネ・アカネ姉妹。


「いっくん。彼女は我々が定めたいっくん独占禁止法を破った愚かな女神です。なので、」


「彼女にキスの制裁を与えちゃって下さい。」


まぁ、今回の被害者は僕だしね。それに逆らうと何されるか分からないので、ここはメルアさんにもお見舞いしてあげよう。僕はメルアさんの顎を持ち上げる。一瞬、驚いた顔をした彼女だが、観念したのかそっと目を閉じ僕からのキスを待ち構えた。僕はそれに答え、<キス術>によるキスを彼女に与え、しっかりと腰を砕かせたのであった。

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