第14話 帰ってきた、あの男

ハァイ。調子いい?アイアムイチロウ。しがない冒険者です。嘘です。現在、女性冒険者に包囲され、左右には女神様でかためられている冒険者です。


「ヌヘヘヘ。いっくん、ボクのことが好きかな?」


「まぁ、嫌いじゃないよ。いつも助けて貰っているし。」


「じゃあさ。そんなボクにもご褒美くらい上げてもいいと思うよねー。」


すると、ワインを口に含んだツカネさん。そのまま両手を首に回すと、一気に唇を突き出し、触れる。


「!?」


周りの女性達のことなどお構いなしにキスをしてくる女神様。さらにそこから、舌を挿入されて口に含まれたワインを流し込まれる。ちょっと。僕まだ15歳なんですけど。


「大丈夫ですぅー。この世界では15歳で成人扱いなので、いっくんはギリギリでセーフなんでーす。」


「あーお姉ちゃんズルイです。ほら、お兄ちゃん。妹である私が食べさせてあげますね。ムチュー。」


今度はアカネの方からキスされ、野菜とコーンのスープを口移しで飲まされる。周りはキャーキャーという声が聞こえる。


「...ファーストキスです。柔らかくて美味しかったです。」


顔を赤くしてモジモジするアカネ。しおらしいところが可愛いなぁ。あれぇ。何だかとても気持ちいいなぁー。だんだん顔も熱くなってきた。呂律も回らない。何だか無性に抱きしめたくなるなぁ。


「ツカネちゃんぅ。実は僕、最初に会った時から惹かれていましたぁ。僕ぅ、ツカネちゃんのことが好きですぅ。ラブですぅ。こんな僕でも好きになってくれましゅかぁ。」


顔を覗いてみると、あたふたしている彼女の顔が。一度も見たこと無いから新鮮で可愛いなぁ。もっとギュウってしちゃおーと。


「あ、あばばばば。キュウ。」


湯気を上げて気絶しちゃった。まーいいや。次はアカネにも抱きつこっと。


「よぉ、チビ。ランクアップした気分はどうだ?おい。」


いきなりドアをバンッと蹴飛ばした大男は、僕を見つけると同時に近づいてくる。


「うわー。空気読めよー。」


「せっかくイチロウちゃんとイチャイチャしていたのに、邪魔するなよ。また袋だたきになりたいのか。」


「うるせー。これは、俺様の冒険者のプライドの問題なんだ。邪魔すんじゃねぇ。」


うるさい。アカネに抱きつきたいのに邪魔すんなよ。


「良かったなぁ。何も苦労せずに1つの依頼だけでB級にまで登り詰めてよぉ。そんなにC級止まりの俺様を嘲笑いたいのかよ、ええ?」


斧を構える大男おおおとこ


「前々からてめぇのことは気にくわなかったんだ。そこの女2人と有り金おいて消えろ。このデスト様こそがここの町のトップなんだ。名誉なんだ。だから、オラァ。」


斧を振りかぶって突進してくるデスト。もとい新人潰し。ハァ。うっせぇ。うっせぇ。うっせぇわ。興が醒めるだろうが。神剣を抜いて斧を受け止める。弱いな。


「こっちこそぉ、うるさいんだよぉ。せっかくいい気分にらったのにぃ。先輩のくせにぃ、空気も読めないんでしゅかぁ。」


力を込めて、デストを吹き飛ばした。わー。壁にめり込んでるぅ。


「グッ。おの。れぇ馬鹿にしやがってぇ。だったらぁ。」


懐から丸薬を取り出す。すると、ラゼバラさんが驚いたような表情を作り出した。


「おい。その丸薬は違法薬物だぞ。デスト、その丸薬を飲むな。冒険者資格を剥奪されたいのか。」


怒りで我を忘れたデストに制止の言葉など届かない。彼はあっという間にその丸薬を飲み込んでしまった。


「おオお。力ガ。力ガ漲ってクるぞぉぉぉ。さすガハ『レベル増強剤』。これナらB級も夢じゃネェゼェェェ。」


うわーそれ明らかにドーピングじゃーん。違法だぁ。だったら始末するしかないよねぇ。


「<魔装:威圧>ぅ。」


神剣に<威圧>を込めると、赤白い稲妻を伴った刃が形成される。


「オラァ、シねぇ。俺様の輝かしい未来のためニィィィ。」


斧を力任せに振りかぶろうとするデスト。力とスピードは上がっているけど、止まって見えるんだよねぇ。


代流魔剣術、神薙かんなぎぃ。」


僕は横薙ぎに大きく振りかぶると、デストは思いっきり吹き飛び、向かい側の建物へと衝突した。あースッキリ。邪魔者は消毒ダァ、エヘヘ。


「ハァァァ...。お前達。今日のパーティーはここで終わりだ。」


「えー、何でよ。このまま続けましょーよー。」


「そうだそうだ。いくら何でも急すぎるよぉ。イチロウちゃんをもっとなでなでしたい。触りたいよぉ。」


「シャラップ!この一件はお前達が思っているほど小さいものじゃねぇんだ。あたしはこれから後始末をしなきゃならねぇし、なによりデストには色々と聞かなきゃならねぇことが出来たしな。」


ちぇー。最初から最後まで僕の邪魔するんだねぇ。その鬱陶しさだけはB級ものだよぉ。


「あの、お兄ちゃん。お兄ちゃんとお姉ちゃんがよければ宿の方で飲み直しません。私、お兄ちゃん達と同じ宿なので。」


「うん。そうしよう、いっくん。こんなので終わらせちゃ、駄目だもんねー。」


いつの間にか復活したツカネ。いいよいいよ。どんどん飲んで抱きついちゃうもんねぇ。今日は無礼講だぁぁぁ。

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