第7話 女神様の我儘
あの後、僕達2人は換金を終え、明日にギルドマスターとの面会を行うという約束をしてギルドを出た。その際、受付嬢ならいざ知らず、女性冒険者達に色々と揉みくちゃにされた。いい匂いはするし、色々な部位に当たる度に、柔らかい感触が理性をゴリゴリ削っていったのだが、何とかギリギリで脱出に成功したのだ。
ちなみにゴブリンについてだが、通常のゴブリンは1匹あたり銅貨5枚、ソードゴブリンとマジックゴブリンは1匹あたり銀貨1枚で換金された。この世界のお金については、次の通りである。
銅貨1枚:100円。
銀貨1枚:銅貨10枚分で、1千円。
金貨1枚:銀貨10枚分で、1万円。
王金貨1枚:金貨10枚分で、10万円。
今回はゴブリン50体、ソードゴブリン50体、マジックゴブリン50体により金貨12枚と銀貨5枚、日本円に換算すると12万5000円となった。ちょっと微妙かな。いや、日本を基準に考えない方がいいな。なぜなら、これから泊まる予定の宿は1泊銀貨2枚。今回は5日泊まる予定なので金貨は1枚。この世界では大金と言えるレベルなのだ。やったぜと言いたい。言いたいのだが、
「今回の宿はここで合っているか?」
「...うん。」
先ほどからツカネさんの様子がおかしい。ギルドを出てからずっとこの調子なのだ。いつもの積極性や達観性は見せず、今はとてもしおらしくなっている。何か、可愛く思えてきたぞ。すると、シュルリと腕に巻き付いてきて、コテッと頭を乗せてきた。甘い香りがしてきて、何故だかクラクラしてくる。抑えろ。抑えるんだ。門の前で誓ったはずだ。決して屈しないと。
気を取り直して、本日からお世話になる拠点(仮)はここ『眠れる森』。朝飯と風呂付きであり、よりどりみどりな宿である。理由は風呂がある、以上。中に入ると1階は食堂、2階は各部屋となっている。まずは受付でチェックインをするが、ここで問題が起きる。
「あら、困ったわねぇ。部屋は今1つしか空いてないのよ。もし2人1部屋の場合なら、大丈夫なんだけど。」
どうやら思ったより遅い時間に来てしまったみたいだ。ギルドに少し長めに拘束されたのが仇になったようだ。男としては眼福なのだろうが。宿を取るか取らないか。言い換えれば、風呂を取るかとらないかの問題。どっちを選ぶべきか。
「泊まったら?どうも後ろのお嬢さんの方は満更でもなさそうよ。ここは男として、ガツンといっちゃいなさい。」
う。それを言われると断りにくい。でも、でも。ん?女将さん。何を書いているの?え、それは。
「女将権限であなた達はここに強制宿泊。何というか、ほっとけないのよ。あなた達を見ていると。」
それはいくら何でも横暴じゃ..いえ、何でもありません。女将さん、僕の負けです。
「イチロウとツカネです。同じ部屋で5泊6日でお願いします。」
「お代は金貨1枚よ。それと、そこのお嬢さんの想いには答えてやりな。後は、あんたが1歩踏み出すだけなんだから。」
女将さんに金貨1枚を支払い、部屋の鍵を貰った。
「行きましょうか。」
「...うん。」
僕達は2階へと登り、部屋へと入った。部屋にはベッドと風呂とテーブルが設置されていた。風呂は水道と風呂桶の2つしかないのだが、そこは<創造魔法>でお湯とシャワーを作成すれば万事解決だろう。問題はベッド。元々は1人部屋であるせいか、2人寝るには幅が狭すぎるのだ。
<創造魔法>でベッドでも、駄目だ。テーブルがあるおかげでベッドが設置できない。いや、待て。このテーブル。ベッドや風呂と比べるととても新しいじゃないか。つまり、このテーブルは最近になってようやく設置し始めたものだということ。くそ、やられた。そして、測ったな女将さん。
僕がベッドに座っていると、隣に彼女が座ってくる。
「ボクね。ギルドでいっくんが揉みくちゃにされている所を見て、心が苦しくなったの。いっくんが取られちゃうんじゃないかって。こんなこと思っちゃうなんて魔法神失格よね。」
しなだれかかってくる一人の女神様。気がつけば、僕は肩を引き寄せて体の中に収めていた。数分における沈黙。
「落ち着いたか。」
「うふふ。そうね、落ち着いたわ。」
「先に風呂に入っていいぞ。」
「じゃあ、遠慮無く入るよー。」
調子が戻ってきたな。口調も元に戻り、声のトーンも大きくなった。明日も忙しくなるから、今の調子でお願いしますよ。僕は安心してベッドから立ち上がろうとするが、何故か立ち上がれなかった。まるでベッドに引き寄せられるみたいに。ま、まさか。
数分後、僕は風呂から出てきた犯人に問いただす。
「ツカネさん。ベッドから立ち上がれないんですが、何か仕掛けましたね?」
「うん。ベッドの所に<重力魔法>を仕掛けておいたんだ。やったね、ブイブイ。」
恍惚な顔をする実行犯。あの、もしもし。僕はそろそろ風呂に入りたいんですけど。
「ごめんね、いっくん。これはただの女神の我儘。素直に受け止めて。」
「え!?」
気がつくと視界はツカネさんの顔で埋め尽くされていた。唇には柔らかい感触。そう。これは、2度に渡る人生での初めてのキスだった。脳が震える...。
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