第6話 女性が”正しい”と言った事が”正しい”のだ

「おい、ここは子供の遊び場じゃねぇぞ、ちび。」


僕の目の前に立ち塞がったのは、いかにも悪い顔をした巨漢だ。背中には斧を背負い、ゴミを見るかのような目を向けている。僕はそれを左に受け流して前に進むが、通ろうとした瞬間に肩を掴まれた。


「おい、無視すんなよ。ゴラァ。もう一度言ってやるが、ここはお前みたいなガキが来るところじゃねぇんだ、分かったか!」


対象は、ツカネさんではなく僕か。新人潰しが現われるのは計画通りなんだけど、絡まれる動機は外れたな。それにしても、周りの様子がおかしい。何というか、一瞬で冷蔵庫のような冷ややかな雰囲気になったぞ。


「ギルドマスターからの命令を、この受付嬢のミルルが読み上げます。『C級冒険者デストに鉄槌を』だそうです。」


「「「ラジャー!」」」


ギルドマスターによる命令を受け、何処かの軍隊みたいな返事をする女性冒険者達。その怒りの矛先は、僕に絡んできたあの冒険者の男に向いている。


「な、何だよ。お前ら。まさかこのC級冒険者ある俺様より、このチビの味方をするんじゃねぇだろうな。」


「うるさいです。この子は保護対象です。決めたのは世界です。それ以上でも以下でもない。」


「そうです。この子は神の寵愛を賜りし子です。だからこそ、それを壊そうとする貴様に鉄槌を下すのです。」


女性冒険者達の様子がおかしい...!?気になったので、鑑定をした所、好感度平均は次の結果になった。


90/100


おっふ。初対面にも関わらず、この数字である。ああ、あのデストという冒険者。もはや、最初の威厳が嘘のように消えているじゃないか。


「お、お前ら。本気じゃねぇだろうな。なぁ、本気じゃねぇって言ってくれよ。」


「ギルティ・オワ・ノットギルティ?」


「「「「「ギルティ!」」」」


「俺様のそばに近寄るなああーッ」


そこからは大惨事。多勢に無勢。女性冒険者達によって滅多打ちにされた新人潰しのデストは僕達の予想を裏切る形でご退場したのであった。


「ふっ。見て。あのデストがゴミのようですわ。」


「正義は私達にあり。」


女性冒険者がギルドマスターによる命令を実行し終えると、首をギギギッと僕の方に向けてきた。怖ッ!


「「「ようこそ、冒険者ギルドへ!」」」


お、おう。それじゃあ、登録を済ませよう。ツカネさんの方を見ると...終始ニヤニヤしていた。他人事だと思って。僕達は周りに注目されながらも受付の方に向かう。


「あのゴ...C級冒険者さんがご迷惑をおかけして申し訳ありません。そして、改めてようこそ。冒険者ギルドへ。本日は登録ですか?登録ですよね?」


「あ、はい。登録で間違いありません。僕達2人の分をお願いします。」


「それでは、冒険者ギルドの説明をしますね。」


冒険者ギルドは一言で言えば、依頼を受けて金を稼ぐという仕事場所及び買い取り場所。依頼達成回数により、階級はF、E、D、C、B、A、S、SS、SSSの順に上がり、階級毎に難易度も上がるという経験値システムを採用している。依頼は受付が斡旋してくれるため、掲示板の依頼の争奪戦とかをせずに済むらしい。


パーティー登録の場合、2人以上からでも出来るが、受けられる依頼はパーティーランクにより、パーティーの一部のメンバーだけで受けるならばその人達の平均ランクで決まるという。パーティーランクと平均ランクは、F=1、E=2、D=3、C=4、B=5、A=6、S=7、SS=8、SSS=9とした場合の平均値から求められ、もしS、A、Dという3人パーティーの場合、そのパーティーランクは5.3でBと定められ、そのパーティーの中のS、Aの2人のみが依頼を受ける場合、平均ランクは6.5でAと定められるといったカンジだ。


「それでは、このカードに魔力を流して下さい。それによって、情報がカードに写され、身分を証明するものとなります。」


僕達は受付嬢の言う通り、無色のカードに魔力を流すと、カードは5色に光り、そして光が収束し収まってくると、僕達の目の前には赤、青、緑、茶、白からなるカードが2枚完成した。綺麗だなーと僕達は感心し合っているが、周りの冒険者の人達は何故か驚いた顔を浮かべている。あれ、何かやっちゃいましたか?という2つめのテンプレを回収したのかと頭に浮かべながら受付嬢の方を見ると、とても神妙な顔を浮かべ、次の言葉を発する。


「全適性の色。オールラウンダー。魔法神様の寵愛を受けし者達。」


これを皮切りにギルド内は騒然。無論、冒険者ギルド初心者である僕達は首を傾げるだけだった。分からないものは分からない。そのため、僕は受付嬢にカードとオールラウンダーについて質問をしてみた。


「では、一から説明します。このカードの色は属性の色を反映させます。火なら赤、水なら青、風なら緑、土なら茶、派生魔法なら白です。つまり、カードの色によって相手がどの属性なのかも一目で分かるのです。そして、2色は2人に1人、3色は4人に1人、4色は8人に1人の割合で発現されるのですが、全色は歴史の中で未だ1人だけ。そして、その全色を発現した者をオールラウンダーと私達は呼んでいます。」


「あ、その過去の1人はボクのことだね。ちょっと外の空気吸いにこの世界に下りた時があったんだけど、そこでやらかしたんだっけー。テヘペロ。」


受付嬢の方。その伝説の当人がここにいまーす。


「長い歴史を重ねてほぼ御伽話化してしまったオールラウンダー。まさか、この辺境の地に降臨されるなんて!これは、冒険者界のビッグスター誕生です。」


拝啓。お父さん、お母さん。本日を以て、僕達2人は世界中に名前が知れ渡ることになりました。あなた達の愛しい息子より。


これじゃあ、偽装の意味ないじゃないか。

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