第2話 魔法を練習しました

目を開けるとそこは微風の吹く草原が広がっていた。周囲を見渡る限り、魔物の気配はないようだ。取りあえずは安心と言っておこう。ごくたまにラスボスのいる場所とか、冒険者が一度入ると帰ってこられない的な場所に転移することもあるからな。開幕クライマックス展開はお断りだ。


「はーい、到着。ステータス的には『死の森』でも良かったけど、体に慣れないうちは危険だよねー。」


「なるほど。それで、僕達の現在地は?」


「だから、『死の森』手前の草原を転移地点にしました。えへっ」


訂正。安心ではなかった。思いっきり開幕クライマックスすれすれじゃねーか。一瞬でも彼女を見直した僕自身をぶん殴りたい。それよりもまずは体になれる必要がある。特に魔法の発動方法とか使い方とかは早めにマスターしておきたい。


「そんな魔法について悩めるいっくんに素晴らしい提案をするよ。何とここは魔物が多発する地帯。なので、魔法の練習にはもってこい。さらにさらにツカネちゃんという魔法のスペシャリストがいるから、ここは魔法を使わなければ、無作法というものだよ。」


いっくんとは僕のことかな?一応、恋人関係でない限り、呼び名は自由にさせておこう。旦那とかダーリンは断固阻止。だが、確かに言われてみるとある意味ではお得かもしれない。ここで、魔法について存分に学ばせて貰うとしよう。


「先生。よろしくお願いします。」


「ツカネ。」


「...はい?」


「ツカネと呼ばない限り、魔法講義はしないよー。それとも、授業料としてキミのファーストキスでも」


わー、分かった。分かったから、腕を首に回してこないでくれー。


「ツ...ツカネ...さん。」


「うーん。さんは取っ払って欲しい所だけど、多目に見てあげるかー。」


ほっ。取りあえずは惨劇回避っといったところか。


「それじゃあ、レッスン開始するよ。」


魔法はMP(マジックポイント)を消費して放つ技で、基本的な属性は火、水、土、風の4つ。使えば使うほどレベルは上がり、最大で10となっている。残念ながら、最初からLv.10である僕の場合、これ以上は成長しないらしい。お楽しみ要素が1つ消えた...。シクシク。


「基本的には頭でイメージして発動するけれど、個性によって技の使いやすさが出てくるから、そこは実践で掴んでいくこと。取りあえず、ボクが手本を見せてあげるね。」


ツカネは手を岩の方に向けて、基本中の基本である魔法、<ファイアボール>を発動する。すると、手のひらから大玉の火球が現われて真っ直ぐに飛ぶ。


ズドォーン!!


あれ?ファイアボールってあんなに大きかったかな?いや、気のせいか。この世界の基準はあれなのだ。決して、くらいのレベルが普通なのだ。そうに違いない。


「イメージはボーリング球。頭でイメージしたものを魔力の流れとともに掌に移動させるカンジでやってみて。」


よーし。やってみるか。頭で弾をイメージして、そのまま水のような流れにのせて掌に運ぶ。


「<ファイアボール>」


掌から火の塊が飛んでいくが、その形があの綺麗な球ではなく、何というかに近かった。それに、僕の場合、当たって爆発ではなく、をしていた。


「はーい。そこまでー。いっくんの得意な技分かっちゃったよ。」


もう、分かったのか?だとしたら、どんな系統になるのだろうか?とても気になるぞ。


「キミの得意な技は...ズバリ、ソードやスピア系統だね!<ファイアボール>というものは基本、円だったら球でも楕円でも当てはまるが、違いというものも出てくるんだ。僕はシューティング系の技が得意だから、鉄砲みたいなカンジになっているけれど、いっくんの場合は槍投げに似たカンジだったよね。つまり、これからは鋭利な刃物をイメージして魔法を使うべし。さぁ、やってみよう。」


今度は言われた通りにやってみる。イメージは炎の槍。それを掌から放出する。


「<ファイアスピア>。」


火で作られた槍が高速で飛んで、森の木々を貫いていく。そして、数秒後、轟音とともに火柱が上がった。威力!威力がさっきの<ファイアボール>の比じゃない!


「うんうん。予想通りだね。得意な技は不得意なものよりも攻撃力、スピード、威力が一段階異なるんだよ。大体の人がムラ無く覚える、一通り網羅するカンジで魔法を扱っているけどそれじゃ駄目。イメージはどうしても得意不得意が出てくるから、得意な方をガンガン使った方が魔法は栄える!」


魔法の神が言うと、説得力が違う。それに、僕自身が実感した。ボールよりもスピアの方が桁違いだった。同じ属性でもこうも違うというのは一番の成果だったかも知れない。それにしても、


「お腹が減ってきた。何か、食べたい。」


さっきから腹の虫がなっているのだ。ああ、カレー食べたい。ラーメン食べたい。いきなり故郷の味が恋しくなってきたのだ。


「今、特定の料理を食べたいと思ったでしょ!」


当然のように心を読んでくる女神様。


「ならば、ここで<創造魔法>の出番だね。」

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