第29話 分析と考察
アリーザが所用を終えてギルド本部中庭に構えられた小屋に戻ると、自分のデスクに記憶に無い書類が置かれていた。
「これは?」
自分に覚えがないのなら、可能性は小屋の中で働くもう一人、フレイしかいない。
「衛兵本部の練兵場に集積されている物資に関する報告書です」
フレイは作業を止めずにそう答えた。
「解説して」
放り投げられた報告書を手に取ったフレイは渋々といった様子で話し始める。
「結論から言うと、行われているのは連隊規模の部隊移動の事前物資集積と思われます。港湾部に確認したとろ物資の運搬船の数が多すぎて商業ギルドの貿易船が接岸できない状態になっているようです」
「らしいな」
特に驚く様子もなく相づちをうつアリーザに対してフレイが意外そうな目を向ける。
「課長はご存じだったんですか?」
「あれだけ派手に運んでたんだ。むしろあんたの目が節穴だろうよ」
そう言われると反論できないフレイは、事実の分析に続く影響の考察を述べた。事実仕事にかまけて日が昇る前に出勤して人通りのなくなった深夜に帰宅していたフレイは今日まで大通りにあふれる荷車に気づかなかったのである。
「ギルドや金融課に与える影響としては、冒険者の動きと商品流通の両面から考えられます。
現在、中級以下の冒険者を中心にダンジョンではなく荷運びの臨時クエストを受けています。それによって中級以下の冒険者のほとんどのリスク評価を引き下げる必要がある一方で、ダンジョン上層部のモンスターが狩られずに放置されることで上級の冒険者のリスクが上昇しています。中級以下の冒険者がダンジョンに入らないことによってダンジョン産品の産出量の現象が足下で始まっていますが上層モンスターの利益比率は低いのでギルド経営に与える影響は限定的です」
「なるほどね。同意する。ただリスク評価に関してはダンジョン産品の減収と相殺する意味でも据え置きにしよう」
「分かりました。次に商品の流通面に関してですが、港湾の混雑によって商業ギルドの倉庫に在庫が積み上がっている状態です。このままでは商業ギルド側の手元資金がつきてしまう可能性があるので、何かしらの取り決めを行い取引の継続を保証する必要があると思います」
フレイが商業ギルドとの決済に関する話題を出すと、アリーザは露骨に嫌な顔をした。
金融課をアリーザ一人で回していたころは、決済に関する取り決めには金融課は関わっていなかった。しかし、フレイが越権行為をしているわけではない。本来金融課が司るべき事務の中に商業ギルドとの決済取り決めの交渉が含まれていたのである。
アリーザがこの事務を行ってこなかったのは単にアリーザが仕事をえり好みしていて放置していただけであり、今のフレイはアリーザがめんどくさがっていた仕事全般をになっていた。
「とりあえず、当面の金策としては商業ギルドが上級冒険者向けに持っている債権を金融課で買い取る形で資金を提供できると考えています。よろしいですか?」
「ああ、それでいいよ」
アリーザは虫でも追い払うように手を払い承認した。
「あとダンジョンの利用者が少ないうちにダンジョン輸送リフトの改修増強を行いたいと設備課が言っているので融資の検討作業を進めておきます」
フレイが手元の作業に戻ると、アリーザが尋ねてきた。
「そういえばフレイ。あんた勇者を目指してたって言ってたね」
「確かに、そう言いましたけど……」
フレイは地元である北部の守護者として戦っていたころ、次期勇者候補と言われ本人としても自分はいつか勇者になるものだと思っていた。
復活したばかりの魔王を倒したさいに受けた呪いの治療をしたときにその話をアリーザにはしていた。
「なんで勇者なんかになりたいと思ったんだい?」
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