第28話 練兵場

 アンとの昼食をおえたフレイは、そのままオフィスには戻らずに冒険者ギルドの面している大通りに出ていた。

「確かに荷運びが多いわね……」

 大通りには、普段の倍以上の荷車が行き来していた。普段であればダンジョンからギルド本部へ、ギルド本部から川沿いの倉庫へと運ばれる荷物は、逆に港の方角からギルド方面、厳密には冒険者ギルドの向かいに居を構える衛兵本部に向かって流れていた。

 ぼんやりと往来を眺めながらも荷物の観察をする。多くは特徴のない木箱に詰められており中身を推測する手段はない。

 時折、大型の建材や布に包まれた細長い棒のようなものもある。

「おう!ネーチャンじゃねえか!」

 推測しかねているところに声をかけてきたのは顔なじみの冒険者であった。ジャイアントオークと戦った時に酒を渡してくれた酒臭い冒険者である。ある意味命の恩人といえなくもない。「どうも。あなたも荷運びをしているんですか?」

「おうよ! 結構稼げるんだぜ、これ」

 そう言って自らが引いていた荷車を誇らしげに叩いて見せた。「モンスターを狩るよりもですか?」

「おうよ! 1日荷車を引けばダンジョン2日分だ。すごいだろ?」

 自慢げにそういう冒険者に対し、「それはあなたが雑魚モンスターしか狩っていないからでは?」と言いかけたのを堪えてフレイは別の質問を投げかけた。

「何を運んでるんですか?」

「んなもんしらねえよ。見るなっていわれてるしな。言われたこと以上のことはしねえ」

 小物らしい処世術だが、この場合は正しいだろう。たかだか荷物運びに高級を出す存在を相手に嗅ぎ回るのは得策ではない。「これどこに運ぶんですか?良ければ連れて行ってほしいのですが」

 そう頼むと、相手は露骨に嫌な顔をした。

「別に中に入れてくれなくても構いません。場所さえ分かればこちらでどうにかします」

「ならいいけどよ……」

 了承が得られるのが速いか、フレイは荷台に飛び乗った。

「速く出てください」

 こうして、足を手に入れたフレイは開け放たれた衛兵本部の門を抜けて本部裏手にある練兵場にやってきた。

 ここまで足になっていた冒険者は次の荷物を運ぶために既に引き返していた。そして驚くべきことに、ここまで一度も衛兵に止められることがなかった。

 冒険者曰く、衛兵も荷下ろしや荷運びにかり出されているとのことだが、本部の警備をないがしろにしてまで急いで運ぶ必要のある荷物なのだろうか?

「おい、そこで何をしている?」

 フレイはため息をついた。

「まさか、衛兵に声をかけられてホッとする時がくるなんて思ってもみなかったわ」

 ほぼ立ち入り自由状態の衛兵本部であってもギルド職員の制服を来ている女性は目立ったのだろう。荷車を引きながら声をかけてきた衛兵はフレイの顔を見ると顔を引きつらせた。

「あ、お久しぶりですアドさん。奥さんとはうまくやれていますか?」

「ああ、おかげさまで……」

「それは良かったです。ところで、この物資は何のためにあ詰めているんですか? まるで軍隊でも進駐してきそうな感じですよね」

「部外者に言えるわけないだろ……」

 強がって見せたアドだが、足が震えているのをフレイは見逃さなかった。

 意味ありげに微笑んで見せると、アドはぼそぼそと知っていることをしゃべり始めた。

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