第26話 保険適用

「たしか、北部の守護者って領主が牛耳ってるんじゃなかったか?」

 アリーザが疑問を挟んだ。

「ええ、ですから。私が領主の娘です。といっても家からは見捨てられてますけど……」

「それで王国から追われて王権が及ばないこの町に来たと?」

「理解が早くて助かります」

 それから、フレイは自分を生い立ちを説明した。領主の娘でありながら剣士として教育を受けたこと、最年少で北部守護者に任じられたこと、勇者を目指していたこと、そして魔王が復活したという情報を入手し魔王討伐を行ったことを説明した。

 二人は、頭を押さえながらその話を聞いていた。

「つまり、この呪いは魔王と戦ったときにかけられたモノデスか?」

「んでもって、その状態でギルドで働いていたと?」

「さらにダンジョンでジャイアントオークと殴り合いをさせられました」

 メイラとアリーザは改めてため息をついた。

「で、メイラ。治せる?」

「分からないデス。こんな状態になって生きていて、さらにスキル発動までしたとなるとアタシの理解の範疇を超えているのデス。数ヶ月貸してほしいのデス。必ず生きた状態で返すのデス」

 想像の斜め上を行くフレイの告白から立ち直ったメイラの目には好奇心が戻っていた。

「却下だ。こいつはうちの貴重の戦力なんだ。数ヶ月も業務から離れさせる訳にはいかない」

 何をされるか分かったものではないメイラの発言と、フレイを認めているようにも呪いを解くことよりも労働力としての効率を優先しているアリーザの発言に顔を引きつらせるフレイをよそに二人は交渉をまとめていった。

「分かりましたデス。とりあえず、呪いの進行を抑える処置を施すデス。経過観察が必要なので定期的にここに来てほしいデス」


 その後、メイラによってフレイの知らない魔道具を大量に使用した治療が行われた。

 正直言ってフレイからしたら、メイラがしているのがフレイのためになる治療なのか本人の知的好奇心を満たすために行っている実験なのかの判断はっできなかったがアリーザが止めずに見守っていると言うことは少なくともフレイの労働力としての価値を毀損する行為ではないのだろう。


 そして治療が終わったタイミングでアリーザから一枚の紙を受け取った。

「なんですか?これ」

 そこには几帳面な文字で<請求書>と書かれていた。

 そしてそこに書かれているのはフレイが見たこともないような金額。

 いや、見たことはあった。既に遙か遠い昔のことのように思える魔王討伐でかかった金額に近い金額がそこには書かれていた。

「見れば分かるだろ、請求書だ。とはいってもこんなに手持ちはないだろうからわたしが立て替えておいた。返済は死ぬまでに必ずしてもらう」

 アリーザが素っ気なく答えた。

 なんの請求書かは聞かなくても分かった。メイラによる治療の請求書なのだろう。

「あの……、保険適用とかは?」

「なにか保険に入っているのか?」

「いえ……」

 治療が保険適用であるか以前にフレイは保険に入っていなかった。厳密には入っていたが、借金から逃れるために名前を変えたのでもはや使えない。そもそもこの世界に魔王討伐で負った負傷の治療が保険適用になる保険などあるのだろうか?どう考えたところで割に合わない。

「そんなあなたに助け船なのデス!」

 落ち込むフレイに対して、おもちゃを与えられた子供のような笑みを浮かべたメイラが楽しげに話しかけた。

「ここに経過観察に来るたびに、アタシの実験に協力してくれるなら特別に~~~あげるデス」

 金額の箇所はアリーザに聞こえないように小声で告げられた。「わかりました。実験に協力しましょう……」

 

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