第25話 余命宣告

「課長、この人関わらない方がいい人じゃないですか?」

「異常さで言えばダンジョンの最下層に放り込んでおくべきやつだが、腕は確かだ」

 隠すつもりもなくそんな会話を繰り広げる二人をよそに、メイラは聖堂中を駆け回って様々な道具を拾い集めていた。

「ささ、このベッドに横になるデス」

 手元に使い道の分からない道具を並べながらメイラは言った。 先ほどの、解剖だと生け贄だのという言葉が気にかかり怖じ気づいていたフレイであったが、アリーザに背中を軽く叩かれ逃げ道がないことを悟った。

「わかりましたよ……」

 諦めてフレイはベッドに仰向けに横たわった。

「なんだか堅くて床に寝てるみたいです……」

 せめてもの抵抗として、文句を言ってみたが反応はなかった。 ベッドの脇ではメイラが紋様の入ったレンズでフレイの体に刻まれた呪術痕を観察しながら何やらブツブツつぶやいていた。 その額には脂汗が浮かんでいた。

 時折、金属片や紙片をフレイの体に押しつけている。押しつけられたそれらが一瞬光を発しているところを見ると使い捨ての魔道具であろう。

「どうだ? 助かりそうか?」

 作業を終え、緊張を吐き出すように大きく息を吐いたメイラにアリーザが飲み物を差し出しながら聞いた。

「分からないデス。この娘はいったい何と戦ったんデスか?」 起き上がっていいのか判断しかねているフレイを見つめるメイラの視線には好奇心とともに畏怖と哀悼の念も含まれていた。

「というより、なんでこの娘は生きているのデスか?」

「そこまでなのか?」

「即死級の呪術と常時発動の解毒スキルが常に相殺することでなんとか息をしている状態デス。そのせいでスキルロットがすべて埋まっているデス。もってあと3ヶ月の命なのデス」

「ちょっと待って!私ってそんなにやばい状態なんですか?」

「体に障るから動いてはいけないのデス。動くと死期が早まるデス」

「でも、こいつこの状態でジャイアントオーク殴り殺したぞ」「私の呪いって刃物を持てなくなるとかお金が貯まらなくなるとかそういう呪いじゃないの?」

 アリーザとフレイの反応は同時であった。

「私、ジャイアントオーク殴り殺したんですか?聞いてないんですけど!」「お前が刃物持てないから剣も持たずに殴り殺したのか?」

 それぞれの発言に対するフレイとアリーザの反応もまた同時であった。

 二人の発言を聞いていたメイラは頭を抱えてしまっていた。

「ちょっと待つデス。詳しい話を聞かせてほしいのデス……」

「わたしも聞かせてほしいね。フレイ、あんたなんであんなに強いんだい?」


 二人に説明を迫られたフレイは、半ば投げやりに決心を固めた。

(さようなら、私の平穏な日々)

 そして思い出した。

 平穏な日々など一日たりとも存在しなかったことに。


「私、北部方面の守護者をやっていたんです……」

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