第24話 聖職者メイラ

 ギルド本部地下に広がる大聖堂。

 色つきのガラスで描かれた古の大戦の様子。巨大な主の象徴たる十字架。そのすべてがここが聖堂であることを物語っていたが、それ以外のあらゆる要素がここが聖堂であることを否定していた。

 アリーザが歩くたびに巻き上がる埃。明らかに後から運び込まれた本棚に詰まっている本は聖典ではなく呪術に関するものばかりであった。

「こんな場所に聖堂があったなんて知らなかったです」

 アリーザに抱えられた毛布から脱出したフレイがあたりを見渡しながら言った。

「ここは、まだダンジョンからモンスターが地上に上がってきていた頃に作られた聖堂だよ」

「じゃあ、結構古いんですね」

 そう考えると、捨てられて忘れられた聖堂のようにも見えてくる。

「もっとも当時はただの魔道的な結界で作られた物資の拠点だったがね。その後聖堂として整備されて今は一人の凶人を閉じ込めておくために使われている」

「凶人ですか?」

 フレイはアリーザの顔をのぞき見た。

 アリーザほどの人物が野放しにされているのに、それ以上に危険視されて隔離される人物などあり得るのだろうか? という疑問がよぎる。

 そんなフレイの視線に構わず、迷いなく進んでいたアリーザが歩みを止めた。

 アリーザが見つめるは、聖堂の中央、一カ所だけ妙に生活感があふれる空間であった。

 どこからか運んできた、机、椅子、ベッド。ベッドの上には丸められた毛布があり、机の上には紙の山と食べかけのサンドウィッチとカップが置かれていた。

 カップからはまだ湯気が立っている。


 しかし、空間の持ち主はそこにはいなかった。

「しかたがない、そこのベッドで休んでいな」

「課長、別に私は病人ではありません」

「では、生け贄デスか?」

 フレイの声でもアリーザの声でもない、甲高い声がした。

「アリーさんも気が利くのですね。こんなに良質な実験体を盛ってきてくれるなんてメイラ感激デス!」

 背後から体をなでられフレイが「ひぇ!」と叫んだ。

「メイラ。こいつは実験体じゃない。治療をしてくれ」

 夢中になってフレイの体をなで回しながら息がかかるような距離で見つめる人物にアリーザはそういった。

「治療デスか? ということは、解剖してはダメデスか?」

「当然です! 一体何なんですかあなたは、いきなり出てきて解剖だとか生け贄だとか」

 慌てて謎の人物から距離を置いたフレイは手元にあった毛布を体に巻き付けた。

「これは失礼。アタシはメイラ。聖職者ダヨ! 専門は呪術ダヨ! 末永くよろしくお願いしたいの」

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