幕間

第23話 食い違い

 有無を言わさぬ口調に、フレイは押し黙ってしまう。

「呪い。それも何重にも重なってかかっている。この手の呪いは進行するんだ。なんで解呪しなかった?」

「お金が……」

「金なら借りればいいだろうに。呪いが進めばそれだけ解呪も金がかかるんだよ。こう言うのは金を借りてでも早めにやっておくべきなんだよ!」

 そう言いながらアリーザはフレイの体に這う呪いを観察した。「付いてこい」

 フレイの反論を待たずにそういったアリーザはフレイに毛布をかぶせると、言葉とは裏腹にフレイを荷物のように小脇に抱えて歩き出した。

 フレイに断るという選択肢を一切与えない所作である。

「どこに行くんですか?」

「黙っていな。自分が裸で毛布に包まれてるって分かってるのかい?」

 脅しであった。

 小屋を出て、ギルド本部の廊下を歩くアリーザは端からっ見たら毛布を丸めて歩いているようにしか見えないだろう。

 中に人が、それも服を剥がれたギルド職員が入っているなどとは誰も思わない。

 脅しに屈したフレイが毛布の中で息を潜めていると、重たい扉を開く音がして急に周囲が薄暗くなった。薄暗くなると同時に今までとは異なる振動を感じ、アリーザが階段を下りていると分かった。

「もう周りには誰もいない。しゃべっていいぞ」

 そう、アリーザが言うとその言葉を待っていたかのようにフレイは抗議をした。

「一体何のつもりですか?今どこに行っているんですか?服を着る時間くらい待てないんですか?」

 毛布から頭を出して一息に抗議をしたフレイに対してアリーザは歩みを止めないまま答えた。

「まず、お前の呪いを聖職者に見せる。今向かっているのは地下大聖堂。服を着るのを待っている時間はない。お前さんの呪いはこの瞬間にも強くなっている」

 フレイはなおも言い返そうと口を開いたが、何も言わずに口を閉じた。

 多重の呪いを受けて、どれも決して軽い呪いではないと理解した上で、治療をしないという選択をしていたのは他ならぬ自分自身であったし、アリーザがフレイの身を案じていることは感じられた。

 抗議をする代わりに、フレイは別の話を振った。

「衛兵の日誌を読むの。意味あったんですね……」

「あ?当たり前だろ?」

 アリーザは心底驚いたように言った。

「嫌がらせだと思っていました」

「ギルドはどこも人手不足なんだよ、新人を干す分けないよ」

 アリーザの言うことは正論ではあるが、何の説明もなしに他人の私的な日記を読んでまとめさせたあげくやり直しを命じたのはアリーザである。

「まあ、それはいいんです」

 薄暗い階段に声が鈍く反響する。アリーザは黙って先を促した。アリーザはアリーザなりに自分の元に久しぶりに来た新人がいろいろと抱えていることを理解しているつもりであった。

「ダンジョンです。ダンジョンに連れて行ったのはなにか意味があったんですか?」

 衛兵の日誌の件はミスコミュニケーションとして水に流すつもりのフレイであったが、ダンジョンに連れて行かれて死にかけた件については理解できずにいた。シャスと話したときにも聞いてみたが、こればかりは分からないと首をひねられてしまった。

「あぁ」とアリーザは何か合点がいった様子だった。「楽しかっただろ?」

 何かが食い違っている、とフレイは確信した。

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