第22話 帰還

 アリーザは金融課のオフィスにおいてあるソファーで目が覚めた。

 アリーザは寝ぼけた頭で、なぜ自分がオフィスで寝ているのかを思い出そうとした。

 血が十分に巡らない頭をゆっくりと動かし、部下の実力を確かめるためにダンジョンに連れて行ったこと、ダンジョンで部下に逃げられてしまったこと、部下の帰りを昨日は一日中待ち、そのままオフィスで寝てしまったことを思い出した。


 柄にもないことをしてしまったな、と思いながら体を起こす。 そして、いつもの習慣で目の前に積まれた書類を一枚手にとった。


「衛兵の報告資料を元にした冒険者3ヶ月生存率報告書、こんな書類作ったかな?」


 書類をめくって中身を改めるもやはり見覚えのない書類だった。

 内容は理解できる。衛兵側の資料を基に各冒険者の3ヶ月後6ヶ月後、1年後の生存率を計算した内容だ。

 驚くべきはその正確さである。

 過去の事例まで遡り、処理手法の正確さの検証までしている。 アリーザの記憶ではここまでの精度は出せないはずであった。「なにか、別の一次データを入れている?しかし誰が?」

 答えは一つしかなかったし、アリーザは既に答えに到達していた。

 答えは目の前で何やら作業をしていた。

「いつも間に帰ってきたんだ?」

 作業に没頭するフレイに背後から声をかけると、フレイは跳ねるように振り返った。

「あ、起きたんですか?課長。頼まれてた資料、作ったんですけどどうですか?」

「ああ、期待以上だよ。それより知らない資料が混ざってるようだが」

「ちょっと衛兵の知り合いに頼んで快く譲ってもらった資料がありまして」

「なるほど、『快く』ね」


 理由は不明だが、部下が戻ってきて仕事にやる気を出してくれたのでよしとすることにしたアリーザは事務机の上に置いてあるものに目をとめた。

「ブランデー?」

 そこには、凝った装飾の見慣れた瓶が置かれていた。

 見慣れた瓶ではあるが、オフィスにあっていいものではない。「これを紅茶に入れて飲むと仕事が速くできるんですよ。おすすめですよ」

 よく見るとフレイの体はほのかに発光しており、スキルが発動していることがうかがえる。

 ブランデーの瓶は3分の2ほど減っており、隣には空の瓶もあった。相当飲んだのだろう。

「フレイ、脱ぎな」

 アリーザの要求に対して、フレイは飛び上がって身を守るように距離を置いた。

「パワハラの次はセクハラですか?私には言うことを何でも聞いてくれる衛兵さんが付いているんですよ?」

「あたしがいつパワハラをしたんだい、いいから脱ぎな」

「え?」

「いいから脱ぎなって言ってんだよ」

 動揺の隙を突かれたフレイを一瞬でアリーザに服を剥がれてしまった。

「やっぱりそうか」

 そして、服の下から出てきたのは全身を覆う黒々として呪詛であった。

 一見入れ墨のように見える文様であるが、フレイの呼吸に合わせてゆらゆらと動いている。

「いえ、これは。違くて」

「なんで黙っていたんだい?」

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