第18話 決意の歩み

 降り注ぐ日差しが髪の毛を炙っている。

 目を開けようとするも眩しすぎて断念した。

 一体自分はどこにいるのだろうか?と疑問に思うも酔いが残るフレイの頭は回答を出さなかった。

 地面は熱く、日差しはきついがぽかぽかしていて気持ちがいい。このままでもいいじゃないかと思い始めたとき、強化されたままの聴覚が一つの会話を捉えた。


「もう交代の時間か、わかった。なにか申し送り事項はあるか?」

 どうやら衛兵詰め所が引き継ぎをしているらしい。

「これは噂話なのですが、ダンジョンの中で騒ぎが起きて女が一人ダンジョンから街に逃げ出したようです。酔っ払った不審な女に気をつけろとのことです」

「逃げ出した?モンスターがではなくか?」

「はい。なんでもジャイアントオークを一撃で殴り殺したとか。補給施設を破壊したとか。

 冒険者が言うことなので当てにはなりませんが、町中で暴れられたらたまりません」

 フレイは、目を閉じたまま衛兵の引き継ぎを聞き流していた。 妙な話もあるんだな、と思いつつも妙な既視感を感じる。

「不審な女と言われてもスラムの入り口に行けばそんな者いくらでもいる。もっと何か特徴はないのか?」

「目撃者の証言では、暴れた女はギルドの職員だったとのことです」

「そいつはあり得ないだろ。ギルド職員はダンジョンへの立ち入りが禁止されている」

「ですよね~」

 噂話を完全に与太話と判断した衛兵2人をよそにフレイの汗は止まらなかった。暑さから出る汗ではなく冷や汗であった。


 昨日起きたエピソードが次々思い出され、記憶が次の記憶を呼び、ついに一つの結論が得られた。


 どうやら自分は酔ってジャイアントオークをぼこして逃げ出したらしい。


 今のフレイにジャイアントオークを沈める力は本来ないはずだが、心当たりがない訳ではない。

 ダンジョンの訓練場で出会った酔っ払い冒険者は、フレイが腕相撲大会で優勝したと言っていた。だが、本来のフレイの細腕では冒険者がいかに雑魚揃いであっても勝ち目はなかったはずである。


 何かしらの要因で力が解放されてしまうのだろうか?

 衛兵が自分のことを話していたが、今自分は衛兵に追われているのだろうか?

 ギルドは自分を守ってくれるのだろうか?

 そもそもギルドに居続けることはできるのだろうか?


 様々な疑問が浮かんでは消えていった。

 

「よし、仕事を辞めよう」


 結論は一度出してしまえば、最初からそうあるべきであったかのようにすんなりと受け入れることができた。

 思えば初日からパワハラを受け、命の危険まであった職場にこれ以上いる意味はあるのか?いや、断じてない。


 そうと決まれば善は急げとばかりにフレイはその場で跳ね起きた。

 2階建ての民家の屋根の上に立ち上がったフレイはあたりを見渡す。

 

 そびえ立つ絶壁と大河の間に位置し、絶壁と大河の間を長大な城壁で囲った都市の中で目的地はすぐに見つかった。


 冒険者ギルドの尖塔は絶壁を背景にその尖塔に日差しを受けて輝いていた。

「これが見納めかな」

 ひょいと屋根から飛び降りて猫のように着地をした。ジャイアントオークを倒せるほどとは思えないが、身体能力は確かに強化されている。


 そして、そのまま尖塔の見える方向を頼りに歩き出した。

 少し遠いが乗り合い馬車を捕まえるほどの距離ではない。

 

 そう思ったことをフレイは後悔することになった。


「ちょっと、そこの君。止まりなさい」

 振り返ると、そこには衛兵の制服を着た男が立っていた。

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