第17話 お酒の力
訓練場を取り囲む観客席は騒然としていた。
いつも通り新人冒険者がゴブリンを狩る練習をしていたかと思えば、図体のでかい女とギルドの制服を着た女が客席から飛び込んできた。
そして、気づいた時にはジャイアントオークにギルドの制服を着た女がなぶり殺されそうになっているのだから仕方がない。
誤解されがちだが、訓練場での訓練は厳密に管理されておりモンスターに冒険者が殺されたり後遺症の残る怪我をすることはほとんどない。
そんなイレギュラーが起きて観客の一部はパニックになりだしていた。
中には地上に上がり衛兵やギルドに知らせに行った者もいた。 しかし、知らされたところでギルドや衛兵はダンジョンに原則として立ち入ることはできない。
そして、今は倒れた女、つまりフレイの体が光り始めた。
観客の中でも冒険者としての経験が長い者たちはその光に見覚えがあった。
「おい、オートヒールじゃないか?あれ」
「まさか、あの歳でか?それにギルドの制服を着てるぞ?冒険者でもない」
「でも、あの光は」
もう一方の当事者であるフレイは泥酔していた。
フレイは元々飲酒をする習慣がない。その上で、怪我をし鼓動が早まっている状態で度数の高いお酒を飲んだことで完全に酔いが回ってしまっていた。
「ひっ、ひっく」
フレイがふらふらと立ち上がる。
「なんで私がこんな目に、遭わなきゃいけないんですかぁ!1!!」
大咆哮であった。
観客、フィールド上の冒険者、アリーザ、ジャイアントオーク、そのすべてがアリーザに注目した。
アリーザは、酒の入った水筒の残りをすべて飲み干し、空になった水筒をジャイアントオークに投げつけた。
フレイの外傷は完治していた。
「ぶっころす!私をいじめた豚をぶっ殺す!私をこんなところに連れてきたくそ上司もぶっ殺す!若者に無理矢理酒を飲ましたくそ冒険者もぶっ殺す!私をこんな目にしたくそ商人どももぶっ殺す!こんな世界ぶっ殺してやる!!」
冒険者を殴ろうとしていたのを止めてフレイに突進したジャイアントオークをフレイは蹴り飛ばした。
予想していなかった方向からの蹴りによってひっくり返ってしまったジャイアントオークの首の上に飛び乗ったフレイは、ジャイアントオークの眼球を殴った。
当然、ジャイアントオークは暴れる。立ち上がろうとし、腕を振り回してフレイを振り落とそうとした。
だが、そのすべてはフレイの殴る蹴るの反撃に遭い封じられてしまった。
反撃の合間にも眼球を殴り、眼球を踏み潰していたせいで、ジャイアントオークの顔からは血にしては粘り気の強い赤黒い液体が流れ出していた。
ジャイアントオークは息も絶え絶えであった。
「あ~、もうやってられない!」
そう叫ぶと、フレイは人間業とは思えない跳躍でフィールドを抜けだし、そのまま縦穴を跳ねるように登っていった。
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