兵站戦のダンジョン

第14話 ジャイアントオーク

　 ジャイアントオーク。

　豚の頭を持つ巨人。

　特徴は低層の中では圧倒的な生命力と筋力。

　巨体故の重量の巨体には似合わない加速力を兼ね備え並の冒険者であればジャイアントオークの突進を受けただけで息を絶やしてしまうことも珍しくはない。

　弱点としては頭が弱く、群れで連携することがない点を挙げられる。しかしそれは頭脳を使う必要がないほどの個体戦闘力の裏返しともいえる。

　そんなジャイアントオークの性質をアリーザは、

「こいつは図体はでかいが頭は悪い。ゴブリンとは正反対だ。練習にはもってこいだろ！」

　とまとめた。

　ゴブリンと違ってジャイアントオークはぶつかられただけで死ぬのですが、という突っ込みを入れられる人間がここにはいない。

　ゴブリンと戦っていた冒険者の装備もジャイアントオークとの接敵を想定した重装備ではなく、フレイに至ってはギルドの制服である。

「あの……。僕たちジャイアントオークに遭ったら装備を捨てて逃げろって教えられているのですが……」

　冒険者の一人がおずおずとアリーザに話しかけた。

「そうか」

　アリーザは冒険者を振り返りもせずにゆっくりと運ばれてくる巨大な檻と檻の中で暴れる豚の頭をした巨人を眺めていた。

「ですから、僕たちがジャイアントオークと戦う訓練をする必要はないのではないでしょうか……」

　ここで初めて、アリーザは冒険者の方を向いた。

「逃げられるのか？」

「は？」

「逃げられるのかと聞いているんだよ。あの豚から」

「それは……」

　考えたことがなかったのだろう。「遭ったら逃げろ」と言われて逃げてもいいのなら簡単だと甘く見た過去の自分を冒険者は呪っていた。

「いいだろう。あの豚を放って10数えるまで逃げ切れればお前は解放してやろう。言っておくがダンジョンは走りにくいぞ」

　固まる冒険者にアリーザは「どうする？」と追い打ちをかける。

「やります」と冒険者は小声で答えた。

「あ？聞こえないよ？」

「やります！ジャイアントオークとの戦い方を教えてください！」

　意を決したように叫んだ冒険者にアリーザは獲物に向けるような笑顔を向けた。

　それにつられるように他の二人の冒険者も「俺にも教えてください」「私にも是非！」とアリーザに教えを請うた。

「あの……、私はギルド職員なので外にだしてもらえるとうれしいのですが……」

　これが脱出する最後のチャンスだと思ったフレイが恐る恐るそう申し出ると、アリーザはフレイが何を言っているのか分からないとでも言いたげな顔を向けた。

「何を言っているんだい？あんたのためのジャイアントオークだろ？」

「は？」

「フレイ、あんたが戦ってこいつらに戦い方を教えるんだよ」

「冗談は顔だけにしてください！」

「言うじゃないかい。でも冗談じゃない。あんたは戦えるはずだよ」

　フレイとアリーザが言い合っている間にもジャイアントオークを入れた檻は訓練場の中に運び入れられ、ロープで外につながれた檻の蓋がゆっくりと開こうとしていた。