第15話 強者の遊び
ジャイアントオークが吠えた。
その咆哮は、弱者が強者に対して行う威嚇ではなく、強者が弱者に対して行う蹂躙開始の宣言であった。
ジャイアントオークが両手を地面についた。
ジャイアントオークの右後ろ足が地面を掻いた。
ジャイアントオークが首を下げ、堅い頭部を正面に向けた。
ジャイアントオークが突進の準備を整えた。
その間フレイは眺めていることしかできなかった。
そして、ジャイアントオークが緩慢に、しかしその巨体からすれば驚くべき加速でフレイに突進を仕掛けた。
(やばい)
そう思った時にはフレイの体は宙に舞っていた。骨という骨を折られなかったのはギリギリで体に染みついた受け身がとれたからであったがそれすら完璧とはほど遠いかった。
(やっぱり知覚が追いつかない)
ジャイアントオークの突進をもろに受けてなお、ふらふらと立ち上がったフレイに対して、そばで見ていた冒険者と観客が歓声をあげた。
一方のフレイを吹き飛ばしたジャイアントオークはフレイの生死を確認しようともせず勝利の雄叫びをあげていた。
この怪物にとって、これは生きるために行う狩ではなく衝動によって行うスポーツであるのだろう。
スポーツとして敵を狩るのに相手の生死を確かめる必要はない、殺し損ねたとしても圧倒的な実力差で再びねじ伏せるだけなのだから。
1つめの獲物を沈めた怪物は次の獲物を探す。
そして、獲物の中で一番でかいメス個体に狙いを定めた。
怪物にとっての不幸は、足りない頭脳故に相手の実力を正確に計ることができないことであった。
先ほどと同じように、下半身に力をためて突進を仕掛けた。「ほ~。それなりに鍛えてるじゃないか」
何が起きたか把握できない怪物が聞いたのは、本来であれば吹き飛んでいるはずの獲物が自分の頭を掴みながら発した声だった。
そして、次の瞬間遅まきながら本能が危険を察知して飛び退こうとするがアリーザがそれを許さなかった。
「逃げるんじゃないよ。あんたの獲物はあっちだよ」
そう言うと、怪物の頭を無理矢理ひねってフレイの方を向かせるとそのまま頭から手を離して怪物の尻を蹴り飛ばした。
怪物はつんのめりながらも指示された方向に走り出した。
だが、その走りは今までのような狩る側の突進ではなく強者から逃げるために走りであった。
だが、突進される側にとって、その違いは意味を持たない。
フレイは再び宙を舞った。
地面にたたきつけられたフレイは、再び立ち上がろうとするがすぐには立ち上がれなかった。
獲物が地面に落ちたのを見た怪物は三度突進をかけようとしたが、かなわなかった。
背後から近寄ったアリーザが怪物の首に腕を絡めて動きを封じていた。
「どうしたんだい?なんで武器をとらないんだい?」
訓練用フィールドには四隅に予備の武器がおいてある。ジャイアントオークに並の武器が有効かはともかく生身で戦うよりはましであろう。
「私、武器とか持てないんです!」
フレイが叫んだ。
「甘ったれたこと言ってんじゃないよ。あんた死ぬよ!」
「でも、無理なものは無理なんです!」
「あっそ。じゃあ死にな」
アリーザは再び怪物をけしかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます