第13話 稽古をつけてやる
「もし、実際のダンジョンで孤立したゴブリンがいた場合。7,8割方は罠なんだよ」
だから、ゴブリンにうかつに手を出さないのは正解なのだとアリーザは言った。
「それは、詭弁じゃないですか?たしかに実戦ではそうかもしれませんが……。でも、ここは練習です。罠はありません」
フレイの反論に対して「かもな」と応じたアリーザはさらに続けた。
「臆病な人間は些細な動きにも気づく。見てみろ、あいつなんてゴブリンが自分に気づくより前に逃げてるぞ」
そう言ってアリーザはケタケタと笑った。
きっと、アリーザは仕事の息抜きに見世物に連れてきてくれたに違いない。フレイはそう思い始めていた。
実際、見世物がダンジョンの中にある訓練施設であるというところに目を瞑れば腑に落ちる。
そう思って、新人冒険者の訓練を楽しみながら見ていると、背後から声をかけられた。
「おぉ、昨日のネエチャンじゃねえか」
振り返るとそこにいたのは、いかにも酒臭そうな外見をした中年冒険者であった。ボロボロの安物防具を身につけているあたり低層で雑魚モンスターを狩って生計を立てるロマンに欠ける冒険者の類いらしい。
「あの、どこかで会いましたか?」
雑魚冒険者の知り合いに心当たりがないフレイは、心底嫌そうな顔でなれなれしく話しかけた冒険者をにらんだ。
「おいおい、昨日の腕相撲大会の決勝でやり合った仲だろ?」「腕相撲大会?」
そう言われると、それらしい記憶があるようなないような気もする。
だが、目の前にいるような安物防具に身を包んだ冒険者があまりに多く果たして目の前にいる男がその場にいたのか確信が持てなかった。
「おい、その話くわしくきかせな」
「いいぜ、このネエチャンはな。腕相撲であのヴィクターに狩っちまったんだ。それはもう見事な押し切りでバチン!って感じでやっちまってよ」
「そいつはすごいな」
「それだけじゃねえ。あの飲みっぷりをあんたにも見せてやりたかったよ」
調子のいい冒険者はフレイを前にしてアリーザにフレイの醜態をあることないこと告げていた。恐らくほとんど事実なのだが、間違っても上司に知られたい内容ではない。
「あの、私急用を思い出したので失礼しますね……」
そう言って立ち去ろうとしたフレイを丸太のようなアリーザの腕が絡め取った。
「おいおい、まだ業務中だよ。それよりその自慢の腕っ節ってやつを見せてくれよ」
「いや、本当に身に覚えがなくて。完全に酔っ払っていたもので……」
フレイは言い訳を最後まで言うことができなかった。
アリーザがフレイを抱えたまま跳躍をしたからである。
跳躍をしたアリーザは訓練場の真ん中、つまりはゴブリンがいた場所に着地した。そのゴブリンはといえばアリーザに頭蓋骨を踏み潰され反応する間もなく息絶えていた。
自分たちが相手にしていたゴブリンが突然潰されたことに唖然とする新人冒険者をよそにアリーザは訓練を取り仕切るベテラン冒険者に話しかけた。
「ちょっと訓練に混ぜておくれ」
ベテラン冒険者は「またあんたか」とため息をついて。そして、「勝手にしな」と許可を出した。
アリーザはフレイを放り投げるように解放した。
「よしお前ら。あたしが直々に稽古をつけてやる、感謝しな!」
アリーザの一方的な宣言にもかかわらず、アリーザを囲む3人の冒険者は「はい!」と威勢のいい返事をした。
自分たちが苦戦したモンスターを一撃で踏み潰したことで、彼らの仲で序列ができあがったのだろう。
その様子を見て、「動物かよ」という突っ込みとともにアリーザが稽古をつけると言った対象に自分自身も含まれているのではないかという恐怖が身を走った。
とっさに逃げ道を探すが、モンスターを戦わせることを目的に作られた訓練場は実質闘技場であり内側から外に出ることができない作りになっている。
そんな中背後から聞こえたのは非情な宣言だった。
「そこのあんた!準備してる一番強いモンスターをだしな!」
「ジャイアントオーガだがいいのか?しかもまだ弱らせてない。あと少し待ってくれたら毒を盛って動きを鈍くできる」
「そいつは都合がいい。もちろんそのまま出しな!」
それはアリーザが闘技場の外でモンスターの管理を行う担当者にモンスターを入れさせる依頼、もとい命令であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます