第12話 訓練施設
テントの中央には、四つん這いになって威嚇をするゴブリンが1匹いた。
そのゴブリンを囲むように軽装備の冒険者が3人。
冒険者は片手剣装備、槍装備、ダガーをそれぞれ装備していた。
ゴブリンはダンジョンの低層や森の奥地にあらわれるモンスターで、通常群れで行動する。
特徴としては、原始的ながら知能があり冒険者から奪った武器も使ったり、連携して攻撃をすることもある点が挙げられる。 それらの性質から、発生してから時間がたち経験、武器、仲間が多くなったゴブリンは討伐クエストが組まれるほどの脅威度となる。
しかし、今テントの中で冒険者に囲まれているゴブリンは単体であり武器ももっていない。
つまり、危険度はそれほど高くはないのである。怪我をするとしてもゴブリンにかみつかれる程度のものだろう。
しかし、ゴブリンを囲む冒険者3人はなかなか切り込もうとしなかった。
たまに、ゴブリンの背後に回った冒険者が切り込もうとしても足音を察知したゴブリンが振り返り威嚇をしただけで必要以上にバックステップをして距離を開けてしまう。
そんな様子を、フレイとアリーザはテントの外縁部に設置された観覧席から眺めていた。
「こんな、初心者の訓練を見世物にして金をとるなんてギルドが許してるんですか?」
ゴブリン相手に怖じ気づいている初心者冒険者に対して、周囲の観客がヤジを飛ばしているのを眺めながらフレイはアリーザに訪ねた。
「もちろん。ギルドだって分かってやってる」
アリーザは、ゴブリンと牽制を繰り返す冒険者から目を離さずに答えた。
続けてアリーザが解説したところによると、この初心者訓練施設兼見世物小屋はギルドが業者にクエストとして新人向け実践教育を依頼した結果だという。
ギルドは高すぎる初心者冒険者の死傷率を訓練で減らすことを目的としている。
クエストを受注する業者の方では見返りとしてクエスト報酬の他に、新人冒険者とモンスターが殺し合う様子を見学可能にして見学料を徴収することをギルドが黙認する密約を結んでいる。
「まさに、win-winの取引ってわけだな」とアリーザは締めた。 そういう視点で改めて見ると、観客の中にはどう見ても冒険者には見えない人々もいる。
あらかじめ訓練施設だと聞いていなければテントも相まってサーカスを見ていると言われても信じただろう。
「それにしても、あいつら何時までちょろまかしてるんですか?」
周囲の観客の声も、冒険者を励ますものから何時までも攻撃しようとしない冒険者を貶すものに変わっていった。
「フレイ。あいつらをどう思う?」
不意にそう尋ねてきたアリーザに、フレイは強烈な違和感を覚えた。そして、初めてアリーザがフレイの名前を呼んだという事実に気づいた。
(名前覚えてたんだ。)
「さっさと質問に答えな」
「えっと、ギルドがこうして新人に訓練をしているので……」
「そういうのはいいよ」
アリーザがややうんざりした口調で遮った。
フレイはギルドがクエストを介して運営する新人教育の意義を聞かれたものとばかり思っていたのであっけにとられてしまった。
「あの、冒険者どもについてどう思うかだ」
「それなら、えっと……」
「正直に言え」
「弱いと思います。丸腰のゴブリン相手に斬りかかれないようではダンジョンでは生き残れないと思います」
フレイは言われたとおり正直に答えた。
未だにゴブリンにかすり傷一つ負わせていない3人の冒険者がダンジョンに潜って生きて帰ってくるビジョンがどうしても見えなかった。
だからこそ、フレイの出した結論に対するアリーザの主張は意外なものだった。
「いや、あいつらは生き残る。そして、強くなる」
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