第10話 優しい世界。厳しい現実
フレイは寮のベッドの中で落ち込んでいた。
頭がふらふらして、自分が落ち込んでいることは理解できても何に対して落ち込んでいるのかが理解できない。
カーテンの隙間から漏れている朝日を眺めているうちに昨日の出来事を徐々に思い出していった。
そうだ、職場から勢いだけで飛び出したあと飲み屋にはいったんだった。そこで、有り金全部はたいてお酒を飲んで。ついでに一緒にいた冒険者と仲良くなって腕相撲大会をやって優勝して、優勝の賞金で飲み直したんだった。
うん、なにに悩んでたんだっけ?
この世界はこんなにも優しいのに。
「出勤時間になっても現れないと思って見に来てみれば幸せそうな寝顔さらしてやがるね」
世界はこんなにも優しいのに、耳障りな声が聞こえる。
「遅刻分は給料から引くから。そのつもりでいるんだよ」
優しい世界のはずなのに厳しい現実を突きつけてくる。
厳しい現実?
フレイは目を見開いた。
見開いた目に映ったのはフレイの上司である金融課長、アリーザの巨体であった。
「なんで課長がいるんですか?」
朝起きたら上司が部屋にいたとか普通にホラーである。
「なんでってさっき言ったろ?心配で見に来たって」
「でででも、鍵、鍵は?私締めましたよ」
セキュリティー意識の高さには自身があるフレイは、たとえ自分が泥酔していても無意識に鍵をかけた自身があった。
「んなもん合鍵があれば一発だろ?」
何で合鍵なんてもってるの?という疑問はすぐにアリーザが答えてくれた。
「この建物は金融課が差し押さえた物件を流用してるからな。合鍵ぐらいもってるさ」
かくして、フレイはバックれすら許されずに職場に連行されたのであった。
フレイの目の前には昨日同様に衛兵の日誌がある。もう開く気すら起きなかった。
「やる気がなさそうだな。二日酔いか?」
「まあ、そんな感じです」
まさか、嫌がらせの仕事だからやっても意味なさそうとはいえない。いや、言ってもいいのかもしれないが、アリーザを前にしてそんなことを言う勇気がフレイには無かった。
そんなフレイの顔をアリーザはじっと見つめていた。自分より二回りも大きい存在にじっと見つめられるというのは動物としての本能に働きかけるものがある。
フレイは、やる気が出ないとは別の意味でも動けなくなった。
「よし、ついてこい」
視線を外したかと思うとアリーザはそんなことを言った。
「ついて行くってどこへですか?」
まず思いついたのは人事部にあるという行って依願退職の書類にサインをするまで出れない部屋であるが、そもそも昨日就職したばかりで試用期間中のフレイは退職金なしで解雇できるのでそんなことをする意味はない。
「面白いところだ」
アリーザが邪悪な笑みを浮かべた。
身の危険を感じたフレイは逃げ出そうとしたときに、積み上げてあった書類の山に足を引っ掛けてしまった。
自分の身長の倍ほどもある紙の束が凶器としてフレイに降りそそいだ。
そして、フレイは気を失った。
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