第25話
ボウリングを楽しんだ後もいろんなスポーツを楽しんだ。
わいわいと穏やかにプレイすることもあれば、ボウリングのときのようにチーム対抗で勝負をしたりと時間が過ぎるのを忘れてしまうくらいに楽しんだ。
サッカーを適当に楽しんでいたところで、四人の中で一番体力がないであろうひなたが少し休憩とベンチに座ったところで花園もそれについていく。
俺と恭也だけがコートに残された。
「じゃあそろそろメインイベントいっとくか」
「メインイベント?」
突然の恭也の言葉に俺は首を傾げる。そんなイベントあっただろうかと考えてみたが、思いつかなかった。
「俺とお前のバスケ勝負だよ」
「そんなのをメインイベントにするな。勝ち負けが明らか過ぎて勝負にならないだろ」
「お、随分強気だな」
「それはもうやったろ」
俺のツッコみを受けて恭也は楽しそうに笑う。
そのままバスケコートの方に向かったのでどうやらバスケ勝負は何が何でもするつもりらしい。期待の新人と言われている恭也に、中学で卒業した俺が敵うわけがない。
まあ、遊びと思えば楽しめるだろうけど。
「バスケするのー?」
バスケコートに移動した俺達を見て花園が訊いてくる。恭也が「おう」と答えるとひなたを連れてバスケエリアのベンチに座り直した。
そうまじまじと観戦されるのも恥ずかしいな。
ことバスケ対決となると恭也の独壇場だろうからひたすらに負けているところを見られることになる。
「一〇点先取で勝ちってことでいいよな?」
「いいけど。ハンデは?」
「んなもんいらないだろ」
「俺の評価どうなってんだよ」
中学に上がって、運動系の部活に入れという親からの圧に負けて、俺はバスケ部に入った。
いろんな部活があった中でどうしてバスケを選んだのかというと、特別な理由はなく、ただ周りの友達がバスケ部に入ったからという、ただそれだけ。
そこで恭也と出会ったのだ。
「榊ーっ!」
ベンチの方から俺を呼ぶのは花園だ。
何だろうとそちらを向く。お前が応援するべき相手は恭也だろうに。どうして俺に声援を送るんだ。そう思っていたが、正確に言うと花園のそれは声援などではなかった。
「もし恭也君に勝ったら、香月さんがほっぺにチューしてくれるって!」
「うわわわわっ」
隣に座っていたひなたが慌てて花園の口を塞ぐ。でももう全部言ってしまっていたんだけど。
何でそういう話になったんだろう。いや、あのリアクションからするとそんなこと言ってないっぽいな。花園の勝手な暴走か。残念。
「ほっぺにチューだってさ。俄然燃えてきたろ?」
「……勝てたら、だろ」
じゃんけんで先攻後攻を決める。
こういうのはだいたい後攻めの方が有利だと言われているが、それはあくまでも実力が拮抗していればの話だ。
今回の場合はどっちでもいいだろう。じゃんけんの結果、恭也が先攻で俺が後攻になった。
「それじゃあ行くぜ」
俺の様子を伺うように、ゆっくり歩きながらドリブルを始める恭也。
俺は膝を曲げてディフェンスの姿勢を取る。もう半年以上前のことだというのに、意外と体は覚えているものだな。
一瞬、真っ直ぐこちらを向いた恭也だったが次の瞬間に素早いドライブで俺の右から抜き出そうとしてきた。
それに咄嗟に反応することができず、追いかけようと体の向きを変えたときには恭也はすでにレイアップシュートのモーションに入っていた。
どうすることもできずに恭也は二点先取する。
「へへっ、どうよ?」
「毎日練習してるだけあって、ドリブルのキレが増してるんじゃないか?」
攻守が交代し、俺は恭也からのバスを受け取る。
どうせ勝てるはずがない、そう思っていても最初からやる気なくプレイするのは間違っている。一矢報いる気持ちで立ち向かうとしよう。
最初の一本、ここが流れを作るという意味でも非常に大事だ。さっきのドリブルを見るにそう簡単に得点を阻止することはできないだろう。
ここは何としても点が欲しい。
「お」
ベンチに座る花園が小さく声を漏らしたのが聞こえた。
ボールを受け取った俺は一呼吸を置くこともせず、右にドリブルを始める。当然、恭也だったそれには反応してくる。これで抜ければよかったけど、そんな上手くいくとは思っていない。
俺は恭也が反応した瞬間、逆方向にドリブルをして裏をかく。
ブランクのある俺がこんなことをしてくるとは思っていなかったのだろう、恭也は驚いた顔をこちらに向けた。次の瞬間には反応してくる。
だから、この一歩でリードを作る。
恭也のような超スピードのドリブルはできなかったが、それでもリードは十分に取れた。レイアップシュートで俺も得点する。ジャンプシュートとかだと自信はないが、レイアップシュートならばまだ入る。
「やるじゃん。ビックリしたぜ」
「最初くらいはな」
そこからは両者相手の攻撃を止めれずに点を取り合う展開が続いた。
俺が恭也の攻撃を止めれないのは分かるが、恭也が俺の攻撃を止めれないのは信じられない。
手を抜いてくれているのかとも考えたけれど、試合やゲームでそういうことをされるのを凄く嫌う恭也が自らそんなことをするとは思えない。
何よりも、その表情は至って真剣だ。
「全然現役復帰できるんじゃねえの?」
「……いやいや、もう限界寸前だって」
さすが鍛え方が違う。
俺はぜえぜえと息を切らしているのに恭也は呼吸一つ乱さず涼しい顔をしている。日々の努力の大切さというものを痛感させられる。
「今からでも遅くないと思うけど?」
特別、下手くそだったわけではなかった。
スタメンではなかったけれどユニフォームは貰っていたし、そこそこ試合にも出させてもらった。高校に入ってもバスケを続けようと思っていたこともあった。
バスケを辞めたのは、ただ単純に自分の実力の底が知れたからだ。
だから、自分の限界を決めずに挑戦することを決めた恭也のことはシンプルに尊敬している。
「俺とここまでやりあえんだからさッ!」
キレのあるドリブルで俺を抜き去った恭也。しかし、俺はそれに反応する。
いや、というよりは最初から抜かれることを決めつけていた。だから、恭也のドライブと同時に俺は後ろに下がったのだ。
「な、ん」
驚いたのは俺の方だった。
完全に捉えたと思った。しかし、俺が下がった瞬間に反応したのか、恭也はその場でストップしてシュートモーションに入った。
「何か企んでるとは思ってた。だから、ずっと警戒してたんだよ」
見惚れるくらいに綺麗なシュートフォームだった。放たれたシュートは弧を描いてそのままリングに吸い込まれていく。
「ダメだったか」
「トリッキーなプレイはお前の十八番だったもんな」
「あはは」
遊び心の延長線のようなものだった。
でも、どうやったら止めれるかとか、シュートを決めれるかとか、いろいろ考えて実戦するのは楽しかったな。
「まだお前のターンが残ってるぞ」
結局。
そのターンのオフェンスを恭也に止められて、勝負は俺の負けということで終わった。
久しぶりにバスケをしたけど、やっぱり楽しいな。たまにはこういうのも悪くないと、そんなことを思った。
「ほっぺにチューはお預けだな」
シシシと冗談混じりに笑う恭也。
「残念だったね、榊」
俺達のところにやってきた花園が俺の方をぽんと叩きながら言ってくる。
いや、別に最初から期待はしてなかったし。そもそも花園が勝手に言っていたことだろうし、奇跡的に勝っていてもひなたがしてくれたとは思えない。
「香月さんも残念だったね?」
「そそそそんなことないよ?」
慌てた様子でひなたが言う。
そんな彼女と目が合い、どちらからでもなく目を逸らす。二人が余計なことを言うものだから、変に意識してしまうじゃないか。
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