第24話


「……嘘、だろ」


「そんな……」


 ひなたの予想外のストライクに恭也と花園ペアはあんぐりと口を開けて驚く。

 いや、俺も同じくらいに驚いてはいるけれど。全てのピンが倒れたのを見て、ひなたはぴょんぴょんと跳ねて喜んでいた。


 そして、ハッと何かに気づいたのかこちらを振り返りてててと駆け寄ってくる。


 どうしたのかな、と思ったが、彼女は両手を少しだけ上げて俺を見る。


 ああ、なるほど。


「おめでと」


「うんっ」


 さっき恭也達のハイタッチを見ていたもんな。

 俺とひなたもパンと手を叩き合わせる。


「やるねえ、香月さん」


 ポキポキと指を鳴らしながら花園が立ち上がる。

 こうなってくると俺もプレッシャーを感じてしまうな。


「頑張って、咲斗くん!」


「……おう」


 まさか彼女に一投目からストライク出されるとは。


 運動神経がいいであろう花園も、さすがに慣れるまではそう上手くはいかないようで八ピン倒すだけだった。まあ、俺は六ピンしか倒せなかったんですけどね。


 その後の展開として。

 恭也はその運動神経で大活躍を見せた。


 その反面、コツを掴みきれないのか花園はスコアを伸び悩ませていたが。


 奇跡的に、ひなたはあのフラフラゆっくりボールでストライクを叩き出し。

 俺はと言うと、可もなく不可もないスコアが続いた。


 自分としてはそんなに悪くないスコアなんだけど、恭也のハイスコアにひなたが善戦しているので何故か雑魚く見えてしまう。

 毎ターン、ひなたから期待の眼差しを向けられるが応えられずというシーンが続いた。


 そんな感じで最終ターンだ。

 恭也が投げ終えて、それにひなたが続く。


 スコアは少しだけあちらのチームがリードしている。

 花園がここでストライクなんてものを取ろうものならその時点で俺達の敗北は決まってしまう。


 しかし、偶然か必然か花園の投球結果はそこそこ。

 俺達に十分勝ちの目があるスコア差となった。

 ただし、勝つためには一投目のストライクがマストとなる。


「がんばれ! 咲斗くん!」


「ミスれ! 咲斗!」


「がんばるな! 榊!」


 各々がエールなり野次なりを飛ばしてくる。

 どうせならんと思っていたが、まさかこんな展開になろうとは。ここで外せば雑魚野郎として何の活躍もないまま終わってしまう。


 だが。

 否ッ!


 逆に、ここでストライクを決めればこれまでのスコアがどれだけボロボロであってもヒーローになれる。

 ひなたに格好いいところを見せるラストチャンスなのだ。


「……ふう」


 集中しろ。

 俺ならやれる。

 想像しろ。


 ストライクを取り、ひなたとハイタッチをしているところを。


 ボールを手にして、一度深呼吸する。

 自分が投げたボールがどう転がって、ピンのところに向かうのかをシミュレーションしてみる。

 手から放たれたボールは一直線に真ん中のピンに当たり、爆発するように周りのピンを巻き込んで全てが倒れる。


 いける。


「よし」


 カッと目を開いて俺はボールを放つ。

 恭也ほどではないものの、それでもボールは真っ直ぐにピンへと向かう。

 イメージした通りだ。この感じならばストライクも夢ではない。問題はボールが急に軌道を変えないかどうかだけれど、それはもう祈るしかない。


 俺が出せる力は全て出した。

 信じるんだ、自分の力を。


 ボールは真っ直ぐに進む。

 そして、真ん中のピンに直撃した。そのピンが後ろのピンを倒し、また後ろのピンを倒しと連鎖していく。


 次々と倒れていくピン。しかし、最後の一ピンがグラグラと揺れて粘りやがる。


 いけ。

 倒れろ。

 倒れてくれ。


「倒れ――」


「倒れてーっ!」


 俺のこみ上げてきたような声をかき消す声が後ろから飛んできた。


 それがひなたのものであることは、もはやわざわざ振り返って確認するまでもなかった。

 その祈りが、声が届いたのか、揺れていたピンはコテンとゆっくり倒れた。


「やった――」


 ストライクだ。念願のハイタッチをしよう。盛大にしよう。そう思いながら、俺は手を上げながら振り返った。


 その瞬間。

 ガバっとひなたが俺に抱きついてきた。俺は突然の衝撃に二三歩よろめいたが、何とか踏ん張った。彼女に抱きつかれて倒れるのはちょっと不甲斐ない気がした。


「おめでと!」


 本当に嬉しそうな顔を向けて、ひなたはそう言ってくれた。


 多分俺よりも喜んでくれている気がする。

 でも、勢いだけで抱きついてきたのだろう、数秒したら彼女は顔を赤くして離れてしまう。


「ご、ごめんね……」


「いや、全然。むしろ、その……嬉しかった、です」


 こういう空気に慣れていないのでどう反応していいのか分からなかった。


 そんな感じで二人の空気に浸っていると、後ろにいた恭也と花園が「イチャイチャしてないで次投げろー」「見せつけんなリア充ー」と野次を飛ばしてきた。それで我に返ったひなたは赤くなったまま後ろに戻っていく。


 俺はそのまま二投目を投げる。さっきので気が緩んだ結果、ガターを出すというような失敗を犯すこともなく、俺達はその勝負に奇跡的に勝利した。


「まあ、絶対に負けないと思ってたから何か敗北も清々しいわ」


「そうだね。ジュースと言わず、何でも好きなもの買ってあげてもいいくらい」


 恭也と花園は俺達の勝利を拍手で祝福してくれた。


 別にいいと言ったのだけれど、ジュースに加えてアイスクリームを奢ってくれた。

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