第23話


 スポッチャは様々なスポーツを楽しめるアミューズメント施設であり、それなりの値段で一日中遊べることから学生には大人気の休日の遊びスポットである。


 なんてことを言っているが、実は俺も来るのは初めてだ。


 花園が手慣れた感じで受付を済ませてくれる。

 遊園地のようにフリーパスのようなものを巻いて施設の中に入る。どうやらこれが施設の使用許可証の役割を果たすようだ。


「とりあえずボウリングすっか」


 施設の中に入って一番最初に見えたのがボウリング場だったからか、恭也がそんな提案をしてくる。

 断る理由もないので俺達はそちらに向かった。


ボウリングシューズに履き替えていると恭也がこんなことを言ってくる。


「せっかくだから二対二で勝負しようぜ。負けたら罰ゲームで」


 恭也は勝負好きだ。

 中学のときなんかは事あるごとにこんな提案をしてきていた。テストの点数や体育の授業はもちろん、掃除の時間やダストシュートのときでさえ遊び心を忘れない。

 かくいう俺も、別にそれは嫌いではないので毎回受け入れていた。


「チームは?」


 俺が訊くと、恭也はふむと唸る。

 俺とひなたを同じチームにするべきかを悩んでいるのだろうか。


 恭也の運動神経は中学のときから見てきたのでもはや確認するまでもないし、花園もバスケ部で頑張っているだけあって悪くはないはずだ。


 ひなたの運動しているところはあまり見なかったけど何となくあんまり得意なイメージは持っていない。


 勝ちに行くならば恭也か花園と組むべきだ。

 俺と恭也が組むと男女別ペアになってしまうので、パワーバランスを考えるなら俺と花園、恭也とひなたが組むのが妥当だと思う。


 しかし。


 ここで問題になってくるのが俺とひなたが恋人であるということ。

 別に四人で遊びに来てるわけだし、カップルだから同じペアになんてことを言うつもりはないが、そういうところを気にされるのは仕方ないことか。


「……どうする?」


 俺とひなたを見る恭也。

 まあ、恭也からすれば花園と組めばほぼ勝ち確だろうからどっちでもいいんだろうな。


「ちなみに罰ゲームは?」


「最初からあんまハードなのも何だし、ここはとりあえずドリンクってことでどうだ?」


「いいんじゃないかな」


 最初から、ということはこの後も勝負の機会はあるということか。


 しかも勝負を重ねるごとに罰ゲームは過酷さを増す可能性さえある。

 であれば、今のうちにエンジョイしていおくのは悪いことではないという結論に至る。


 俺はひなたの方を見た。


「最初くらい一緒のペアでやる?」


「うん!」


 ひなた的にはそれを望んでいたのか、満面の笑みで即答してきた。


「じゃあ、ボウリングは俺とひなたで組むよ」


 言うと、恭也は俺の方に親指を立てて向ける。そのあとに花園と目を合わせてどちらからでもなくニッと口元に笑みを浮かべやがった。


 勝ちを確信したな。

 シューズに履き替え、ボールを準備する。


「ひなたはボウリングの経験は?」


 俺が訊くと、ひなたがこちらを振り返る。

 するといつの間にか結んでいたポニーテールが揺れる。


「あると思う?」


 めちゃくちゃ笑顔で言い返してきた。

 まあ、ないですよね。


「咲斗くんは?」


「あんまり。年に一回か二回行くくらいかな」


 しかも加えて特別運動神経がいいわけではないので戦いの中で進化を見せるという展開にも期待できない。いや、まあ絶対にないとは言い切れないけど。


「まあ、頑張ろうよ」


「そうだな」


 諦めることはない。

 逆にここで活躍できれば格好いいのではないだろうか。


 ストライクを決めまくり、ひなたが跳ねて喜びながら抱きついてくれるところを想像するとつい口元がにやけてしまう。

 ひなたが変な人を見るような目で見てきていたので俺はハッとして気合いを入れ直す。


 よし、自分の可能性を信じよう。大丈夫、俺はやればできる男だ。


「とりあえず俺が投げよっかな」


「おっけー、頑張って恭也君!」


 あちらのチームは恭也が先に投げるようだ。となると、同じ男である俺が先に投げた方がいいかな、と思い立ち上がるとひなたがそれを制止する。


「ここはわたしから行くよ」


「え、でも女子同士で投げた方がいいんじゃ?」


 という気持ち半分、花園と一緒に投げてポンポンとハイスコア出されるのが何か嫌だという気持ちがある。できればここは俺が投げたいんだけど。


「重要な場面で最後にわたしという展開は絶対に嫌なので、ここはわたしから行かせて?」


「いや、でも」


「咲斗くんならいざというとき決めてくれるって信じてるから。ここはわたしから行かせて?」


 これは譲るつもりないですね。

 ならば仕方ないか。


 先に行きたいという一心で言ったんだろうけど、さっきのセリフに少しでもひなたの期待が込められていると信じて後投げの責任を負おうではないか。


 ちなみに後投げの責任とはひなたが言うようにスコアが拮抗した際の最後の投球におけるプレッシャーのことを言う。

 合計スコアなのでそこ場面が全てではないが何故かそこで倒せなかった奴が戦犯にされてしまうのだ。


「いいだろう」


「ありがと」


 言って、ひなたはボールを持ってレーンに立つ。

 先に投球に入ったのは恭也だ。ひなたはそれをじっと観察する。投げ方なんて人それぞれだろうに、何の参考にしようとしているのか?


 放たれたボールが勢いよく転がり、中央のピンに直撃する。

 力強いボールはそのままピンを倒していくが、勢いが強すぎたのか二ピン残ってしまう。二投目でそれを見事に倒し、スペアを獲得した。


「ストライク取れると思ったんだけどなあ」


「いやいや、十分だよ!」


 ハイタッチをして盛り上がる恭也と花園。

 それをひなたは羨ましそうに眺めていた。そして、前を向き直りついにボールを投げる。


 恭也のボールとは比べものにならないくらいに勢いのない緩いボールがレーンを転がる。


 ゆらゆらと右に左に揺れながら転がったボールは真ん中のピンに当たる。

 ゆっくりと倒れたピンがたまたま後ろのピンと倒し、という形で驚くことにストライクを叩き出した。

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