第4話
そして翌週、月曜日。
朝は約束していなければ一緒に登校することもないので俺は一人で教室に入る。
「おはよう」
自分の席に辿り着くまでにすれ違う生徒には挨拶をする。そこにいたのは高木と佐藤の仲良しコンビだった。俺はいつもどおり挨拶をする。
「おっす」
と高木。
「あ、待てよ榊」
と佐藤。
挨拶をするのはいつものことだけど、呼び止められるのは珍しい。何事だろうかと思いながら俺は二人のもとに戻る。
「なに?」
「これ、この子! どう思う?」
言って、佐藤が見せてきたのは何やら雑誌。ジャンプとかマガジンとかそういうのではなく、ファッション雑誌的なもの。
そういったものに興味を示さない俺からすれば無縁のものだ。
開いているページには黒髪ロングの可愛らしい女の子が写っていた。
水着グラビアとかじゃなくて、普通にファッションを見せるものらしく綺麗な感じの服を着ている。風に吹かれているのかさらさらの髪が靡いているのが静止画でも伝わってくる。
「どうって?」
「感想! 香月を可愛いって言うお前の可愛い基準がちゃんと正常か確認しようと思ってさ」
「言い方悪いぞ、佐藤。城戸に怒られたろ?」
「おおっと、そうだ。悪い悪い」
謝ってはいるが、悪びれている様子はない。別に怒ってないし、気にもなってないからいいんだけど。
「そりゃ、普通に可愛いと思うけど」
「この子は可愛いと思うんだな。この子、今俺たちの中で結構話題になってるんだぜ」
狭いな。話題になっているエリアが。
そんな話をしていると、何やら廊下の方が騒がしい。
それは高木と佐藤も思ったのだろう。不思議そうな顔をして廊下の方に視線を向けていた。
「なんかあったのかな」
と高木。
「転校生とか? 可愛い女の子かもしれねえぞ!」
と佐藤。
しびれを切らした佐藤が「俺、ちょっと見てくるわ!」と申し分ない野次馬根性を発揮させて立ち上がったそのとき、教室に一人の女子生徒が入ってきた。
廊下からその女子生徒を覗き込む奴がいるところ、ざわざわの原因はその女子生徒にあったことは何となく察することができた。
「え、誰?」
「可愛くね?」
「このクラスにあんな奴いた?」
と教室の中にさっきまでの廊下のようなざわつきが起こる。主に男子だが、その中にちらほらと嫉妬に満ちた声を漏らす女子も混じっている。
肩辺りまで伸びた黒髪。
長いまつ毛、大きな目、スラッとしたスタイル。
その女子生徒は教室の中を歩いて、俺のところにやってきた。
それを見た高木と佐藤はあんぐりと口を開けて分かりやすく驚いている。
さてはこいつら、この女子生徒の正体がまだ分かっていないな。
俺がこんな美少女と知り合いなのか、という顔をしている。
知り合い、というか何というか。
「おはよう、榊くん」
その女子生徒は紛れもなく香月ひなただ。
俺は彼女を見間違えるはずもない。確かに見違えるほどに変わったけれど、雰囲気も、声も、笑顔も、何もかもが変わらない。
「おはよう、香月」
その瞬間、教室内は静寂に包まれた。
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