第12話 公園の激闘
亀田と友達になってから早くも数日がたった。
その間、特にこれといった問題はなく平穏な日々が続いていた。しかし、油断は出来ない。
未だ涼風さんをつけ狙う輩は多い。
そんな奴らに今後も俺は立ち向かわなくてはならない。
亀田の時は亀田が運動が苦手だったからよかったが、今後は筋肉ムキムキの相手と相対する可能性もある。
そんな時に備え、俺は独学で格闘技を習うことにした。
勿論、俺だって出来るなら極真空手とか習いたかった。かっこいいし。
でも、親に「そんな暇があるなら勉強しろ」と言われたため、教室には通えず、仕方なく本やインターネットの知識で鍛錬をしているというわけだ。
「ふっ! ふっ!」
今は涼風さんへの感謝を込めた正拳突きを公園でしているところだ。
休日ということもあり、公園には子連れの親子も大勢いる。そんな中柔道着を見に纏い正拳突きをする俺は途轍もなく白い目で周りから見られていた。
だが、気にしない。
武とは己との対話。重要なのは周りではなく、己の意志。
そうネットに書いてあった。
「ふっ! ふっ!」
一心不乱に正拳突きをしている内に、気付けば昼を過ぎていた。
ふむ。汗もいい感じに出て来たし、ここらで水分補給でもしよう。
そう思い、自動販売機に向かう途中に俺はとある子供たちを見つけた。
彼らはドッヂボールをしていたようだが、どうも様子がおかしい。ドッヂボールに勝利したであろう方は、ニタニタと下卑た笑みを浮かべ、対照的に負けた方は悔しそうに地面を膝についていた。
これは、怪しい匂いがするぜ。
自動販売機に向かう足を止め、彼らの下へ近づくとその会話が聞こえて来た。
「悪いな、下級生。約束通り、ここは俺たちが使わせてもらう」
そう言うのは、短パンを履いた一人の少年だった。彼の手にはボールがあり、その周りには同級生と思しき二人の少年がいる。
そして、彼らの視線の先には彼らより体格が小柄な一人の少年と一人の少女がいた。
「くっ! 卑怯だぞ……上級生三人で寄ってたかって……! 恥ずかしくないのか!」
「なにいってるでやんす? 三対二でも勝負に乗っかったのはそっちでやんしょ? 言い訳とは見苦しいでやんすねぇ」
三人の内の眼鏡をかけた一人が、反論した下級生の少年に言い放つ。その言葉に、下級生の少年は悔しそうに視線を下げた。
「そういうことだ。とにかく、勝負は俺たちの勝ちだ。さっさと出て行くといい」
「ま、待て! ボールを返せ! そのボールは俺たちのものだ!」
「はぁ? お前たちは敗北者でやんす。敗者は失う。勝者は手にする。これは自然の摂理でやんす。このボールはおいらたちが頂くでやんすよ」
「なっ!? そ、そんなのおかしい!」
「まだ楯突くでやんす? 仕方ないでやんすねぇ。へへっ、黒城君、あいつらに痛い目見せてやって欲しいでやんす!」
眼鏡の一言で、ボールを持っていた上級生たちの中でリーダーと思しき男が前に出る。
「やるのか?」
そして、静かにそう問いかけた。
その一言に、下級生の中で先頭に立つ少年は一歩足を前に踏み出そうとした。
だが、そんな彼の腕を後ろにいた少女が掴んだ。
「炎上《えんじょう》君、もういいよ。もういいからやめよ?」
「も、桃城《ももしろ》……でも! あれはお前のボールじゃねえか!」
「だけど、炎上君……これ以上投げたら肩が壊れちゃうよ!」
「俺の肩なんてどうでもいい……。こんな、野球の試合で投げる度に炎上しちまう俺の肩に大した価値はない」
「そんなことないっ!」
桃城と呼ばれた少女が叫ぶ。その叫びに、炎上は目を大きく見開いた。
「炎上しても、炎上君は最後まで投げ切るじゃない……。どれだけ点を取られたって、最後まで諦めずにマウンドに立つその姿は、皆を背中で引っ張る姿は紛れもなくエースの姿だった!! 約束したじゃん……私を甲子園に連れて行くって……」
「桃城……」
まるで漫画かと思うような、甘い空間が二人の間に流れる。
上級生たちもそんな二人の空気を察してか黙っていた。だが、一人だけそんなことお構いなしといった様子の奴がいた。
そう、眼鏡である。
「キャッキャッキャ! 誰かと思えば、お前地区大会でおいらたちのチームに七回十二失点した炎上でやんすか! ぷぷっ。あの姿は惨めだったでやんすねぇ。お前みたいな負け犬にこのボールは勿体ないでやんす!」
「てめえ!」
眼鏡に詰め寄ろうとする炎上。だが、彼の前に黒城が立ちはだかる。
「やるのか?」
「一つ忠告しておく。お前の肩は既にボロボロ。その状態で俺には勝てない」
黒城は炎上の肩を指差してそう言った。
その一言に、炎上が自らの肩を押さえる。黒城の指摘は図星だったらしく、炎上は悔しそうに唇を噛んだ。
「それでも……ッ! それでも、男には引けない時がある!!」
覚悟を決めた表情で、黒城を真っすぐ睨みつける炎上。
その姿は小柄ながらも確かに強き者の姿だった。
「ほう。面白い」
予想外の炎上の言葉に黒城も目を丸くし、そして、笑った。
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