第6話
10年後、順調に大学も卒業し、奈々子は目標の保健師として働いていた。
母が看護師として働いていて、寂しい思いはいっぱいしてきたけれど、小さい頃からすごく憧れていた。
その母がいつも「保健師になりたかったなー。」と言っていたので、自然と奈々子の目標になっていたのだ。
「おはようございます。」
いつものように勤め先の病院へ出勤すると、どこかで見たようなことのある人がいた。
「おはようございます。」
と挨拶され、じっとその人の顔を見つめた。
相手もじっと見つめてきたが、すぐに
「もしかして、ナナちゃん?」
と声をかけてきた。
ママだった。
失礼ながらあの頃より年をとり、きちんと清楚に整った髪型と制服を着ていたのですぐには分からなかったが、ママはすぐ奈々子に気づいたようだった。
「あ、お久しぶりです!どうしたんですか?」
菜々子が挨拶する。
「私、医療ソーシャルワーカーになったんです。これからたまに会うと思いますので、よろしくお願いします。」
と言われた。
それからちょくちょく顔を合わすようになり、いろいろ近況を報告し合った。
ママは中退した大学では臨床心理士を目指していたが、再度目指すには時間がかかりすぎるみたいで、それじゃなきゃいけないということもなく、いろいろ検討した結果医療ソーシャルワーカーになったそうだ。
それと、日永田さんとは結婚せず、飲み屋で知り合った人ではない別の人と結婚し、子どもも生まれたという。
ママの10年はとても濃密な駆け足の時間だったみたいだ。
ママは言う。
「私は遠回りしたけど、失敗ではなかったわ。もし夜の世界に行かないで大学を卒業してたとしても、その後にやっぱり夜の世界に行ってたと思うの。
ただ、大学は卒業するべきだったとは思う。
親に申し訳なかったと心から思うし、もう一度やり直したいと思っても、それができなかった。
やりたい職業ができるはずだったのに、自分から手放してしまったから、そこは後悔してる。でもね、私にとってあの時間があるから今の私がいる。
やりたいことを好きなようにやってる私はとっても幸せだわ。
ゴールを決めるのは自分。
今の仕事は難しいけど、とてもやりがいがあるの。いろいろするのに年齢って関係あるけど、重要じゃないわね。
今の仕事に就いて親とは和解できたし、いい人と結婚できて孫の顔も見せれたから、大学を卒業しなかったことの罪滅ぼしを少しはできたと思う。」
私たちは、ときどきご飯を食べに行くようになった。“ママ”の子どもがまだ小さいから、お酒は飲まない。
でも、そのうちきっと行くだろうな。懐かしい夜の街へー。
ー完ー
まわりみち ニ光 美徳 @minori_tmaf
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
授乳奮闘記/ニ光 美徳
★15 エッセイ・ノンフィクション 完結済 16話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます