2 甘い濃い

彼女は微笑みながら私に言った。私は黙って、小学生の頃から使っている勉強机の引き出しから、使い古されたカッターを取り出した。テーブルの上に置く。マルゲリータちゃんはスッと笑みを消すと、私に部屋の扉と窓が閉まっているか確認させた。

「大丈夫だよ」

私は彼女を宥めるように声をかけた。再び彼女の前へと戻る。床に座る。

「・・・はいっ!」

マルゲリータちゃんが掌をパチンと合わせた。合図だ。

私は咄嗟にカッターを手に取る。制服の袖を肘上までぐっと引き上げると、腕の内側の白い肌には赤い線がびっしりとついている。青い血管がうっすらと見えるところに、私はカッターを押し当てた。

「うん、そうそう。そうやって引くのよ、いつもやっているみたいにね」

さー。

細い線が幾重にも重なって私の左腕に産まれてゆく。もう白い綺麗な肌とは言えなくなった私の腕には、罰がびっしりとつけられる。

「違う、そうじゃないでしょう。もっと、もっともっともっともっと強い痛みを与えないと。あなた、こんなもので自分が許されるとでも思っているの?」

マルゲリータちゃんが私のために、厳しい言葉をかけてくれる。私は彼女の、私を思う気持ちに胸を打たれて戒めを更に強化させる。

彼女はいつも私に正しい道を説いてくれた。

例えば中学受験に落ちた時、ママが家で泣いているのを見て、マルゲリータちゃんは全部私が悪いと言ってくれた。本当のことを教えてくれた。ママが泣いているのは私のせいだと。

15歳の頃、私がある男の子にみだらな思いを持ちかけた時、私を正気に戻してくれた。私に愛することなんてできないのだと気づかせてくれた。

「さあ、生まれてきたことを懺悔しなさい。あなたが今までどれほどたくさんの人に迷惑をかけてきたのか。今もこうして生きていられるのは誰のおかげなのか。誰がいるからあなたは生きていけるのか」

「マルゲリータちゃん、ありがとう。私はあなたがいるから、この17年間生きてこられました。

もしもあなたがいなければ、私は自分の罪の重さに耐えかねてとても生きてはいけなかった」

一生懸命伝えると、マルゲリータちゃんはようやく少し微笑んでくれて、私にさらなる指示をくれた。

私がやることはただ一つ、この世に生まれてきた罪を償うこと。それもこれも全て、マルゲリータちゃんが教えてくれたことだ。


「まこー、ご飯よー」

私が箪笥の角に頭を打ち付ける寸前、一階の方で声がした。

ママが私を呼んでいる。今日のご飯はなんだろう。好きなものじゃない方が、いいな。

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