3 熱い

マルゲリータちゃんと一緒に階段を降りる。彼女は何度も私に、階段から転げ落ちて頭を強く打ち付けることを指示したけれど、今回ばかりは拒んだ。

(拒んだと言うより、そうせざるを得なかった。そうでなければ、私がマルゲリータちゃんに逆らうことなどするはずがない!)

なぜかというと、私が彼女にこうして救済をされているところを見ると、大人たちは私とマルゲリータちゃんを引き離そうとしてしまうだろうからだ。大人たちは、マルゲリータちゃんを認めてくれない。何だか、そんな気がする。そんなことをされたら本当に私は死んでしまう。野生の勘のようなものだろうか。

「マルゲリータちゃん、ごめんね。怒らないでね、本当にごめん」

ああ、私はなんという悪い子なのだろう。こんなに手助けをしてくれている彼女を拒むなんて。

ダイニングキッチンに席は二つしかない。

ママは私を睨むと、私の肩を掴んで無理やり椅子に座らせた。

「何してるの。早く食べなさいよ。あなた、ママがどれだけ忙しい中で料理を作ってあげたと思ってるの?早く食べて。片付けなきゃならないんだから」

ママは家に隣接されているネイルサロンの店主だ。店はあまりうまくいっていないみたい。

私はスプーンでシチューを掬う。良かった、ママは私の隣のマルゲリータちゃんに見て見ぬふりをしてくれている。やっぱりママは私の二番目の理解者だ。

とろりとしたシチューはなんの味もしない。ぱさぱさのサラダを口の中に押し込む。

早く、早くして。

私は掌の中に汗をかきながらママが出ていくのを待っている。頭の中が沸騰しそうだ。早くしないと。

「それじゃあ、ママは仕事に戻るからね」

ママは、私たちに目もくれないで出ていく。扉がパタンと閉まる音がした。

その瞬間私はマルゲリータちゃんに飛びついていた。掴んでいたスプーンが拍子に部屋の隅に飛んでいく。

「早く、指示を出してよ!お願い、私、どうにかなってしまいそうなの。スプーンを無理矢理飲み込む?シチューを頭から被る?なんでもいい!早く、私を解放して・・・」

マルゲリータちゃんはむすっとした。彼女は私がねだった時は必ず嫌な顔をする。

「あなたって本当に下品な人だわ。ご飯を作ってくれたママの気持ちにもなりなさい。あなたのような子供をこれまで育ててくれた賢者のように優しい親じゃないの」

私の暴れていた心臓がマルゲリータちゃんの言葉で落ち着いてくる。

「ご飯を食べなさい。話はその後」

彼女は残酷にもピシャリと言った。私がどれほど喉が焼けるように指示を欲しがっているかも、彼女はきっと知っていると言うのに。

スプーンなんて探していられない。皿を持ち上げて熱いシチューをドロドロと喉に流し込んだ。

皿の上のレタスをがさっと鷲掴みにして口の中にねじ込む。一気に飲み込んで苦しくなった喉に冷えた水を通した。物が胃の中に溜まる感覚。焦燥感が更に高まっていく。

「マルゲリータちゃん!」

ほとんど悲鳴のような叫びに、彼女はようやく私にまた指示を出してくれるのだった。

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