ブラックチェリータルト
お餅。
1 甘い
君は幸せになっていいんだ。
君には価値があるんだ。
君に罪はないんだ。
君は世界に愛されているんだ。
テレビの中に閉じ込められたアーティストが何か歌っている。
たまたまテレビをつけたらそこに音楽番組があったというだけで、これは決して私が自分から望んで見ているのではない。
私は一瞬テレビの電源を切ることを躊躇する。そういえば思い出す。このアーティスト、確かパニック障害を患っていたことがあると。何もかもぐちゃぐちゃになって、部屋から出られないような日々が続いたと。
歌い終わったアーティストの目から涙が溢れる。それはまるで映画のように、私の心に小さな穴を作る。
ふと、誰かに背中をこづかれた。
「何してんの、早く来なよ」
私に語りかける人がいた。マルゲリータちゃんだ。
「あ、うん。ごめんね、今行くから」
私はテレビの電源を落とし、二階へと続く階段を上がる。
殺風景な部屋に入り、机の前に腰を落とす。彼女が机の上に美味しそうなスイーツを置いてくれていた。
「はい、あーん」
マルゲリータちゃんの金色のサイドテールが揺れる。私は彼女のフォークに刺さった黒い塊を口に含んだ。彼女が割ったブラックチェリータルトの断片から、赤い汁が滲み出ている。
私たちは学校が終わって帰ってきたばかりだ。
梅雨入り前のこの季節はいつも、なんとなく体がだるいし頭も痛い。だからマルゲリータちゃんの機嫌も自然に悪くなる。私が彼女のお願いを完璧にこなすことが、いつもより難しくなるからだ。
チェリーを歯で噛み潰し、私はマルゲリータちゃんの端正な笑顔を見つめる。お人形さんのような美しい顔立ちをしている。しかも金髪。本当に彼女は神秘的だ。この世のものじゃないみたいに。
「さ」
マルゲリータちゃんは私の口にタルトを押し込むのをやめると、シャツのボタンを一つ外して伸びをする。
「まこ、カッター出して」
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