第6話 聖女の施し
「これだよ」
アシュレイ公爵の邸宅に招かれ、見せてもらった魔道具は、なんとピコピコハンマーだった。
「……公爵、これって」
「“
「えぇ……」
「今まで試すこともできずにホコリを被っていたんだが……」
「ま、まさか……それを私に?」
「転生というのは、実は魔法にもあってね。まだ開発段階らしいんだが。仕組みとしては魂の中に別の魂の核を造り、そこへ入るそうだ。そして主導権を握る。つまり、ミーヤの魂はまだちゃんと存在している可能性が高い」
「で、でも私だけが分離する確証は……」
「無いよ」
「えぇ……」
「はは、心配はないよ。反対側で叩けば魂は元に戻るはずだ」
「はず……それ心配なんですけど」
「とはいえ、このままでは良くないだろう? 私はミーヤと結婚するが、君は私と結婚したいかい?」
「それは……」
私は……。
「君のことはオノルから聞いてる」
「え?」
「彼と、クハルと仲が良いそうじゃないか。ミーヤという別世界の人間に縛られるのは、もったいないと思わないかい? 君は本物のお姫様になれるんだよ?」
そうだ。私が頷けば、それだけでお姫様だ。
ピコピコハンマーが成功すれば、クハルの誘いを断る理由が無くなる。でも……。
「でも、彼は……クハルはミーヤが好きなんじゃ……」
「なにを言ってるんだい! 僕は最初からミヤノが好きなんだ!」
「ク、クク、クハル!? どうしてここに!?」
「公爵に呼ばれたんだよ。話を聞きたいからって」
「おお、クハルくん。いらっしゃい。ぜひ話を聞かせて欲しいんだが、これについて」
と、アシュレイ公爵はピコピコハンマーをクハルに見せる。
「ああ、それのことか。それは生者の魂を体から分離するためのものだ」
「本当にそうなの!?」
「そうだよ。我が国では主に凶悪犯罪者など、逃げられたら厄介な者たちに使う。魂はとても無力だからね、管理しやすいのさ」
「犯罪者用……」
「ははは、まあいいじゃないか。王子のお墨付きだ」
「なんだ? なにをするんだ?」
「クハルくんはミーヤの中身が別人だと知っているんだろう?」
「ああ、知ってるよ」
「だからね、今からこの魔法具でその魂を――」
「それは止めておいたほうがいい」
「ん?」
「その魔法具は、肉体から魂を追い出して分離する。それは間違いない」
「そうだろう? だから今から――」
「転生者の魂が
「うそ……」
「ちなみに、消滅しやすい方の魂は、転生者の魂だ」
「――!」
「アシュレイ公爵が魔法具コレクターと聞いて嫌な予感はしてたよ」
「……ほう? どういうことかね?」
「あなたは、その魔法具を使えば転生者の魂が消滅しやすいことを知ってたはずだ。だから、ミヤノが転生者だと知ってこの魔法具を使うことを思いついた」
「ははは、それじゃあまるで私がミヤノさんを消滅させようと企んでいたみたいじゃないか」
「違うのか? だって目的はミーヤなんだろ?」
「……どういうことかね?」
「魔法具コレクターなら持ってるんじゃないのか? “隠された力を現す魔法”を宿した“
「……」
「ねえクハル、それがあるとどうなるの?」
「その人の持つ隠れた力を引き出すことができるのさ」
「隠された力?」
「そう、例えば
「聖女?」
そういえば、最初にミーヤの話を聞いた時に聖女って言ってたような。
「聖女って、ミーヤを形容するための言い回しじゃ……?」
「正確には“聖女の施し”と言ってね、我が国でも昔一人だけいた伝説的な存在。周辺国どころか世界中探しても一人いるかどうかのレアスキルなんだよ」
「そんなに!? いったいどういう力なの?」
「“聖女の施し”は、理想を現実にするのさ」
「……え?」
「誰しもあるだろう? 夢と言い換えてもいい。なりたいもの、やりたいこと、ああしたいこうしたい。そういった欲望とも言える理想を現実にしてしまうのが“聖女の施し”だよ」
なにそれ? そんなチート能力が存在していいわけ? しかもそれがミーヤに!?
「え、じゃあ私も?」
「いや、隠された力はその人だけのもの。魂の力と言ってもいい。だからミーヤにしか使えない」
「ということは……」
「そう。アシュレイ公爵はミヤノを消してミーヤを取り戻し、“聖女の施し”を自分のものにしようとしてるんだよ」
「そんな……!」
「違うかな? アシュレイ公爵」
「……」
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