第七章 再び体育館の二階で
【オオッー・・・・】
僕達三人の声が揃った。
「ヤッー・・・・!」
胸元でガッツポーズする吉川さんの握りこぶしに、僕は、他の二人も感嘆の声を出していた。
「カ、カッケー・・・・」
山田の呟きが、僕は嬉しかった。
豪快なスパイクを決めた彼女の元に、味方の五人が輪を作るように駆け寄っている。
その中には白い歯をこぼす、本山さんの笑顔もあった。
今日はバレー部の三年生を送る壮行会らしい。
後輩達との最後の練習試合を行っている。
例によって、僕達三人は卓球部がある体育館二階の手すりに、もたれて見学していた。
もう、三年生は受験の準備でクラブには顔を出さない。
だけど、山田と赤石と僕、西島の三人は飽きずに毎日、体育館にいた。
後輩たちも呆れていたけど、邪魔にならないようにしていたのと、時折、練習につきあっていたから、それほど嫌がれてはいないとは思うのだけど。
「いいなぁ・・・西島・・・」
赤石が、ため息交じりに言った。
「まさか、俺たちの中で一番乗りになるなんてなぁ・・・」
山田も手すりのパイプに埋めた両手の中で、ゴニョゴニョ言っている。
僕は赤くなった顔を見せないよう、同じように両手の中に隠れていた。
幸せの中の興奮が、これほど胸を高らせることとは、想像もしたことはなかったから。
「あの日」彼女に告白して以来、僕達は恋人同士になった。
毎日、一緒に帰る約束をして、今日もそうだけど、楽しい時間を共有するようになったんだ。
赤石も山田も、未だ告白できずにいる。
三人の中で一番オクテだった僕が恋人を持っているなんて、誰が予想できただろうか。
【ええっー・・・・?】
あの日のことを説明したら、二人は声を揃えて驚いていた。
「そ、そんなぁ・・・」
特に山田の狼狽えようは、今でも噴き出してしまうほどだ。
「あの吉川だぞっ・・・あの、クールで恋なんて無縁だぞって、その・・・あの・・・」
途切れる声が僕には、最上の誉め言葉になっていた。
でも、あいつは自分のことのように嬉しそうに話してくれた。
「西島、正解・・・最高の女の子、ゲットしたよ。いいなぁ・・・」
素直に話す表情が、ムチャクチャ嬉しかった。
「実は俺も・・・ヤバいなって、思うとき、あったんだ・・・」
横で頷いている赤石にも、泣きそうなくらい、嬉しかった。
「ヤバいよなぁ・・・あの、胸・・・・」
いや、違うだろっ・・・そこは・・・。
それでも僕は悪友の賛美を受けて、夢心地だったんだ。
そう、あの時までは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます