第四章 告白

山田は僕に言った。

得意なドヤ顔で。


「ん・・・て、差し出すんだよ、ラブレターは」

「恥ずかしさの中に、演出された男の純情なのさ」

「そして、走って彼女の気を引いてさ・・・」

「こけるんだよ、ヘッドスライディングで・・・」

「これで彼女の心は鷲づかみ、胸キュンさ」


部活の帰り道。

色んなクラブの奴らと一緒に歩きながら、バカな話をダラダラと。


その中でも山田の話はひと際、みんなの関心をひいた。

あり得ないと分かっていても、引き込まれてしまう。


最後は爆笑で終わる程度の、おバカな内容。

でも僕は、その告白する話は好きで、妙に記憶に残っていたんだ。


だから。

吉川さんに告白する時に、思い切って使ってみようと思った。


吉川由美。

身長170㎝。


切れ長の目。

大きい・・・その・・・バスト。


話す時は見上げてしまうけど。

僕の勘違いかもしれないけど。


僕を見る眼差しが優しく感じる。


いつからだろうか。

吉川さんを意識しだしたのは。


そんなことは分かり切っている。

しっかり、日記にもつけているから。


6月3日。


県大会予選の前日。


僕と赤石が最後の調整で、真剣勝負をしていた時だ。


「サッー・・・!」

赤石の脇をピンポン球がすり抜けた瞬間、僕は雄たけびを上げた。


その時。

吉川さんがバレーボールを持ったまま、立ちすくんでいた。


僕をジッと見つめる切れ長の目が、キラキラしていた。

僕の胸は、キュンとした。


いつもクールで近寄りがたい吉川さんが。

僕を見てくれていることが、凄く嬉しくて。


その日から。

僕は、吉川さんの虜になったんだ。


教室で視線が合うたび。

僕が目を伏せると同時に、吉川さんも戸惑いの表情を見せる。


それって、錯覚なのかな。

でも、何回も同じ仕草が続いていくと。


重なった視線が動かない時が、増えていった。


嘘でもいい。

勘違いでもいい。


僕は少し、勇気を出して吉川さんを見続けた。

視線をそらさないで。


そうしたら。

フッと、微笑んでくれた。


胸が、ズキュン・・・した。

そう、キュンキュンしたんだっ・・・・。


僕は吉川さんが好きだ。


眠る時。

起きた時。


授業が始まる時。

授業が終わる時。


ずっと、ずっと。

同じ言葉を。


僕は脳裏に浮かべていた。


だから。

ある日の放課後。


僕は一歩、踏み出したんだ。


「き、今日・・・放課後・・・・隣の公園で、待ってます・・・」

そう言うのが精いっぱいで、彼女の返事も待たずに教室を出っていったんだ。


「ち、ちょっと・・・」

吉川さんの声は聞こえず、僕は興奮で顔を真っ赤にして公園に向かって走っていた。


十五歳の秋。

僕が由美に、初めて告白した日のことだった。

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