アストレア

「ダメ!!」


 いつの間に目を覚ましたのか。あの少女がやってきて、トカゲをひょいっと抱き上げた。


「ジン! 地球人を傷つけたらダメって、出発する前に約束したよね?」


 まるで犬猫を叱るように、少女は“ジン”と呼んだトカゲの目をじっと見つめながら問いただす。ジンはぷいっとそっぽを向いた。


「ナー…」

「え? “こいつは変態だ。姫さまに触れようとした。いますぐ打ち首にするべきだ”」


 どうやら少女はジンの言葉がわかるようだ。しかしあまりにもひどい内容に、昂輝は抗議した。


「違う!! その子が、亡くなった娘に似てたから…つい…」


 昂輝は少女を改めて見る。娘の紬星は金髪碧眼だった。目の前にいる少女は…銀髪に赤い眼。髪と眼の色は違うが、顔つきはよく似ていた。

 いまにも泣きそうな昂輝を見て、少女がなにか話そうと口を開いたとき、グウゥゥ〜、と情けない音が辺りに響く。

 昂輝とジンがきょとんとする一方、少女は顔を真っ赤にしてうつむいていた。どうやら腹の虫を鳴らしたのは彼女のようだ。


「おなかいてるのか?」


 昂輝が尋ねれば、少女はうなずく。


「実は、すぐに出発したので…なにも食べてないんです」


 グーグーお腹を鳴らす少女に、昂輝はビーフジャーキーに視線をやるも考え直す。


(腹の足しにはなるけど、小さい子にビーフジャーキーはかわいそうだろ。そうなると…)


 昂輝が出した答えは――。


「なあ、もしよかったら俺んに来るか?」

「え?」

「あったかいご飯もあるし、泊まる場所にも困らないだろ」


 そう説明する昂輝だが、先ほどからジンの疑いのまなざしが痛い。


「言っておくけど、ひとり暮らしじゃないから。じいちゃんと一緒に暮らしているからな」

「ナー…」


 本当か? と言っているのだろうか。

 昂輝は、本当だ、と返答した。


「ついでに俺はバツイチの父親だ。こんな小さな子に変なことしねぇよ。それと、おまえたち…地球のお金は持ってるのか?」

「お金?」

「ナー?」


 お金と聞いて、少女とジンは首をかしげる。

 昂輝は文化の違いを実感した。


「そんなんでよく地球に来られたな…」

「すみません。勉強不足でした」

「まあ、これから少しずつ地球の文化を学んでいけばいいさ」


 昂輝は少女を励ますと、彼女に手を差しのべる。


「俺は御剣 昂輝。君の名前は?」

「アストレア」

「アストレア。“星のごとく輝く者”か。いい名前だ」


 昂輝に名前を褒められると、少女――アストレアはパアアっと星がまたたくような明るい笑顔を見せ、彼の手をぎゅっとにぎった。

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