インディゴトルマリンのトカゲ

「――ッ!?」


 とっさに昂輝はうしろへ退く。だが、バランスを崩して倒れてしまった。ついでに大木へ後頭部をぶつける。


「いってぇッ!!」


 ズキズキ痛むところを手でさすっていると、またあの鋭利な刃が襲いかかってくる。慌てて真横へ避けると、それは大木を一刀両断してしまった。ぞっと背筋が寒くなる。

 昂輝は鋭利な刃から徐々に視線を移していくと、その存在に目を疑った。


「…え?」


 それは、猫か小型犬ぐらいの大きさをしたトカゲだった。でも、ただのトカゲではない。美藍電気石インディゴトルマリンのような美しい藍色の鱗と、蠍座の赤い一等星“アンタレス”のような赤い眼。そして、鋭利な刃がついた尻尾はまるで蠍の尾のような形をしていた。


(――地球外生命体!?)


 見たことない生物に、昂輝は感動を覚える。しかし、すぐにわれに返った。


(いやいやいや! 感動している場合じゃない! 俺はこのトカゲみたいなのに命を狙われているんだぞ!)


 そう自分に言い聞かせ、昂輝はトカゲから距離をあける。

 トカゲは昂輝を警戒しているのか、グルル…とうなり声をあげていた。


「お…落ち着け…。どうどう…」


 昂輝は両手をあげ、トカゲに語りかける。


「お…お腹空いてないか? ビーフジャーキー食べるか?」


 せわしなく、ズボンのポケットからビーフジャーキーの袋を取りだす。

 怪訝けげんな顔つきをするトカゲに、昂輝はなぜかビーフジャーキーについて説明する。


「肉を乾燥させた食べ物だよ。歯ごたえあってうまいぞ〜」


 昂輝は袋からビーフジャーキーを一本だして、トカゲに差しだす。しかし、トカゲはビーフジャーキーを尻尾の刃でパシッとなぎ払った。


「ナー!! ナナナナナ!!」


 お気に召さなかったのか。トカゲは憤慨ふんがいした様子でなにか訴えている。

 昂輝はビーフジャーキーを払い落とされたショックもあるが、それ以上に衝撃を受けたのは――。


「変な鳴き声ぇぇえええッ!!」


 トカゲの鳴き声だ。奇妙な鳴き声をしていたため、思わず叫んでしまった。


「…ナー」


 昂輝の発言に頭にきたのか、トカゲは眼をつりあげる。相手の首を狙って刃を振りあげた。


「うおっ!!」


 昂輝はしゃがんでかわすも、トカゲの攻撃は続く。


「ちょっ…!! 落ち着けって!! 変な鳴き声って言って悪かった!!」


 トカゲの攻撃をなんとかかわしていた昂輝だが、うっかり足をすべらせて転んでしまう。


「――あ」


 あお向けに倒れると、トカゲが胸に飛び乗ってきた。鋭利な刃が、昂輝の喉を貫く寸前――。

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