星人の少女

 その日の夜。夕飯を済ませた昂輝は、函館山に来ていた。かつてはきらびやかな夜景が見られていたが、植民地になってからはかげってしまった。


(買い出しにいったら、大半の飲食店が“地球人お断り”の貼り紙がされていたな。あのモジャが独占してるって小耳にはさんだけど…。あれじゃあ商売あがったりだな)


 困窮こんきゅうとまではいかないが、人々の暮らしは日に日に苦しくなっている。日本政府はそれをわかっているが、見て見ぬ振りだ。

 どうにかしたい、と昂輝は思っている。しかし、自分になにができるのだろうか。


(まだ連邦軍にいた頃だったら…)


 そう思ったとき、亡くなった妻子の姿が脳裏にぎった。

 軍人だったら止められたか? 争いの種が増えるだけでは…。

 昂輝は夜空を見上げる。星たちがまたたくなかで、一際ひときわ光輝く赤い星が目にとまった。


「赤い色の星…アンタレスか。じゃあ、これとこれを結べば…蠍座さそりざの完成だ」


 星と星を結びつけるように、指先でなぞりながら昂輝は満足げにうなずく。

 ふと、亡き妻の言葉を思いだした。


『なにか悩み事があったら星にお願いをしてみるといいわ。もしかしたら、望みを叶えてくれるかもしれない』


(星に願う…か)


 昂輝は半信半疑ながら両手を合わせ、蠍座の赤い星に向かって願い事をする。


「どうか、あのモジャ男の独裁から解放されて、みんなが幸せになれますように」


――その直後だった。


 急に明るくなったことに不思議に思い、昂輝が顔をあげると…。なんと、彼の真上を強い閃光せんこうを放った火球が、煙の尾をひきながら通り過ぎていった。


「なんだ!? 隕石か!!」


 昂輝はびっくりし、火球を目で追っていく。それは彼の真後ろにある森の中へ落下した。ドンッ! というとてつもない衝撃音が響きわたる。

 昂輝は火球が落下したであろう白煙を目印に、その場所へ向かった。生い茂る草木をかき分けて奥へ進んでいくと…。


「これは…」


 昂輝は息をのむ。目に入ってきたのは隕石ではなく、カプセル型の小さな宇宙船だ。

 昂輝は押し倒された木々をまたぎながら、宇宙船に近づく。こわごわとそれに触れた瞬間、プシューッ! と空気が抜け、まるでおもちゃのギミックのようにガチャガチャと音を立てながら開かれる。

 なかから現れたのは、雪のような美しい白銀の髪をした小柄の少女。推定年齢は五、六歳だろうか。まだ幼さが残っている印象だ。

 昂輝はスウスウと寝息を立てて眠っている少女の顔を見て、亡き娘と似ていることに気づく。


「…紬星?」


 娘の名をつぶやき、昂輝が少女に触れようとしたとき――。突然少女の脇から鋭利な刃が飛び出してきた。

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