鮭のチャンチャン焼き


 アストレアとジンを連れて、昂輝は自宅へ帰ってきた。急な来客に朱鷺は昂輝をとがめることはせず、アストレアとジンを穏やかに出迎えてくれた。

 朱鷺がアストレアの相手をしている間、昂輝はなにを作るか決めるべく、冷蔵庫のなかを確認した。


(生鮭と…半分のたまねぎ、にんじん。それから、少量のキャベツ…。味噌みそとバターもあるから、アレを作るか!)


 料理が決まると、昂輝は材料を手にして台所に立つ。手際よく調理を進めていき、フライパンに千切ったキャベツ、薄くスライスしたたまねぎ、にんじんをき、味噌を使った調味料を振りかけ、塩こしょうで味つけた生鮭とバターを載せ、ふたをして蒸し焼きにする。

 ふと昂輝はある疑問が浮かんで、アストレアに尋ねた。


「そういえば、ジンはなにを食べるんだ? ビーフジャーキーをあげようとしたら拒否されたんだけど」

「ビーフジャーキーってなんですか?」


 アストレアに問い返され、昂輝はビーフジャーキーの袋を彼女に見せる。


「牛の肉を干した保存食品だよ」

「肉…。ジンはこんな見た目をしているけど、肉類はまったく食べないわ」

「そうなの!?」

「ビーフジャーキーを差しだしたとき、ものすごく怒っていなかった?」

「怒ってた。なにを言っているのかわからないけど、文句も言われた気がする」

「口にしたくないほど嫌いなの。なぜかはわからないけど…」


 ジンは肉が嫌い。

 昂輝はしっかりと頭に記憶した。


「じゃあ、肉以外なら大丈夫だよな?」

「肉以外なら大丈夫。とくに“いも”っていう野菜を好んで食べてるわ」

「“いも”…」


“いも”と付くものなら大丈夫なのだろうか?


 昂輝に新たな疑問が生まれた。

 その間に料理が出来上がり、鮭と野菜、野菜のみと分けてお皿に盛り付けた。


「お待たせ。“鮭のチャンチャン焼き”の完成だ」


 鮭と野菜が入ったお皿をテーブルに置く。アストレアは、興味津々に“鮭のチャンチャン焼き”を見やった。


「コウキ。これはどうやって食べるの?」

「鮭と野菜を溶けた味噌とバターに絡めて食べるんだよ。まあ、鮭だけ食べてもいいし、野菜だけ食べてもいい」


 昂輝からアドバイスをもらい、アストレアはフォークに少し切った鮭の身と野菜を刺し、溶けた味噌とバターを絡めてから口に入れた。よく噛んで味わっていると、彼女の眼が星のようにキラキラと輝きだす。


「うまいか?」


 昂輝が聞くと、アストレアは何度もうなずく。そのあとは黙々と食べていき、あっという間に完食してしまった。


「ごちそうさまでした。とってもおいしかったわ」

「そりゃあよかった」

「ねえ、コウキ。“チャンチャン焼き”の“チャンチャン”ってどういう意味なの?」


 アストレアの質問に、昂輝は少し考えてから口を開く。


「名前の由来はいろいろな説があって…。“ちゃっちゃとくつくれるから”、“お父ちゃんがつくるから”、“焼くときに鉄板とヘラがチャンチャンという音を立てるから”とか、たくさんあるんだ」

「そうなんだ。…わたしとしては“お父ちゃんが作るから”がいいな」


 一瞬、アストレアはさびしそうな表情を浮かべた。

 昂輝は気になったものの、突然足のすねをつつかれる。視線を下げれば、ジンがからっぽになったお皿をくわえていた。

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