クランクハイト 1

 午前中の授業の終わりに、体育の授業となる。ここからは俺の時間だ。

 五月の暖かな日差しの下で、子供達は校庭に集まっていた。

「みんな! お待ちかね、ナオトの剣術の時間でーす」

 この時を待っていた、とばかりにエリスが声を張り上げる。「おー!」という子供達の声が響いた。

「本当に楽しみだったんだな」

 俺は刀に手を添えたまま、子供達の前に出る。 そこに置かれた台座には、俺の足ほどの太さの木材が置かれていた。

「ナオトにはこれを斬ってもらいます」

 エリスが囃し立てる。

「斬ったやつはそのまま孤児院の暖炉の薪に使うんだよね。一石二鳥だわ」

「ミア、茶化しちゃだめ。本当のことだけど」

「エリス、そんな目的で俺を呼んだのか」

 俺はエリスに眼を飛ばす。

「い、いいじゃないの。子供達は授業ばっかりだと退屈そうだし」

「ふーん、まあいいや。バッサリいきますか」

 俺は台座の上の木材に近づいていく。

 俺は台の上に置かれた木材の前に立つと、腰の刀に手を添えた。鯉口を切り、ゆっくりと腰をかがめる。

 そして、俺は刀を抜いて横に薙ぎ払った。台の上の木材が一の字に切れる。

 子供達の歓声が上がった。エリスが、台の上の切られた木材を持ち上げて、なめらかな年輪を子供達に見せつける。

「お見事。まだまだあるからね。ミア、お願い」

「うん」

 ミアは、どこから用意してきたのか、 今度は縦長の木材を持ってきた。台の上に設置すると、そそくさと他の子供達のところに戻っていく。

「次はケス斬り、だっけ、それお願い」

「そう言うなら袈裟斬りな」

 俺はエリスに言うと、再び刀を構えた。切っ先を木材に向け、斜めに振り下ろした。台の上の木材は鋭利な角度で斬れ、宙を舞って地面に転がる。

斬られた木材の断面はなめらかで、何かに突き刺せば貫通しそうな鋭さがあった。

 また、子供達の拍手が鳴り響く。

 すかさずミアが駆け寄ってきて、次の木材を台に設置した。そして切られた木材を拾い上げる。

「ナオトってほんとすごいね。そんな重そうなものを軽々と振れるなんて」

 ミアは斬られた木材の断面を見ながら言う。

「壁のこっち側に来てからも、よく振っているからな」

 それに、防疫壁の向こう側でも振った。銃弾、もしくは襲ってくる人を相手に。

「私もいつか、それ振れるようになるかな? かっこよく」

「危ないからミアは触るな」

「ミア、早く離れろよ。勝手に二人でだべるな」

 子供の一人がぶーぶー不満を漏らした。「ごめんごめん」とミアは走って仲間のところに戻っていく。

 

 俺が刀を振るところを披露した後、子供達は一人一人が木刀を持って、友達と互いに叩き合っていた。俺も本物の刀は腰の鞘にしまって、木刀を構えている。

 俺が対峙しているのは、同じく木刀を構えているミア。

「じゃあ行くぞ、ミア」 

「うん」

 ミアは真剣な眼差しで俺を見つめ、木刀の先を上げる。

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