クランクハイト2
そのまま威勢よく俺に飛びかかってきた。「てやっ」とミアが木刀を振り下ろすのを、俺は受け止める。乾いた音が周囲に響いた。
いつの頃からか、俺はこうして子供達に剣術を教えている。きっかけは、俺が毎日のように庭先で刀を振るのを、ミア達が見たことだ。そんなに憧れたのか、剣術を教えてほしいとせがまれるようになった。
この場にいる八人分の子供用に短い木刀と、俺が今持っている木刀、これらは近くの山の木を切り出して、俺やエリス、ムーテルが削って作り出したものだ。
子供達に剣術を教えるのは、俺にとって面倒なことではない。むしろ上達していく様を見るのを楽しんでいる。
――それにこの子達にとっても、体を鍛えておくのはいいことだ。
――四年前みたいな内戦が生じたとき、生き延びる確率が上がるから。
子供達にこんな話をして怯えさせるつもりはないし、戦いに備えさせるというつもりもないけれど。
「いっくよ!」
ミアが、今度は木刀を横振りしてきた。子供ながらに不器用ながらも本気の太刀筋が、俺の脇腹を狙ってくる。
俺はこれも受け止めた。鍔迫り合いの格好になって、俺は間を詰める。体の小さなミアを、もろに見下ろす形になった。
「遠慮がなくていいな。じゃあ次はこっちの番だ」
俺は木刀でもろにミアを押した。ミアは後ろによろめく。転びそうになるのを何とか踏みとどまった。
――今日は、少しくらい本気を出してもいいだろう。
俺は真上から木刀を振り下ろす。ミアは何とか、俺の木刀を受け止めた。
だが、脇ががら空きだ。俺は木刀を切り返すと、彼女の脇腹を狙い、服のぎりぎりのところで木刀を寸止めした。
「隙ができているぞ」
ミアの栗色の瞳に、動揺が走る。
「ナオト、ひょっとして本気?」
「そうしてほしいって、お前態度に出ているぞ」
もうちょっと手加減してほしい、と言われればそのとおりにするのだが。
「つ、次お願い!」
ミアは俺から間合いを取って、木刀を構えた。俺も刀を構えると、ミアに一気に距離を詰めた。
俺が攻撃を繰り出し、ミアが受け止める。木刀同士がぶつかる乾いた音は、他の子供達が立てる木刀の音よりも大きく響いた。一方的に攻撃を受け続けるミアは、反撃の糸口を掴めずにいる。しだいに後ずさるようになった。俺が袈裟斬りを仕掛けると、後ろに大きく下がってよけようとする。
だが、俺は追いついた。彼女の喉元に、俺は木刀の切っ先を突き付ける。
「後ろに逃げるな。そんなことをしたって刀は届く」
「は、はい!」
「じゃあ次」
言った直後、俺は間を入れずに次の攻撃をミアに仕掛ける。ミアは何とかその場に踏みとどまり、俺の攻撃を受け止めた。
ミアは、ここの男の子にも負けないくらいに体力があるほうだ。度胸もあるし、木刀の振り方を教えたら、一番飲み込みが早かったのもこの子。
だが俺に本気を出されて、さすがにミアは怯え、栗色の瞳が震えている。
「あえて前に出るんだ」
刀を振り上げて、俺は言った。
「懐に入れ。攻めろ」
ミアの瞳の震えが止まった。木刀の先が迷いをなくしたかのように、俺をまっすぐに捉える。
俺が木刀を振り下ろした。だがミアの小さな体は、俺の脇をすり抜けた。
俺の背後をとったミアは、そのまま刀を振り下ろしてくる。
俺は身を翻し、ミアの木刀を受け止めた。
「うそ? これも受け止めるの? やっと一本取ったと思ったのに」
ミアが声を上げる。
「いや、ミアの勝ちでいい」
俺は木刀から左手を放した。拳を握って、ミアの前に出す。
「よく踏み込めたな」
褒められて、ミアは頬を染めた。
「うん!」
ミアも同じく木刀から左手を放し、拳を握って、俺の拳とぶつけた。
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