第十話 スキルの恩恵

「それにしても惜しいですな。これだけの御方を旅に出すとは」

「買い被りだ。外れスキル持ちだからね」

「いいえ。そのお年にして既に貴族としてのお振舞い。お見それいたしました」

 世辞ではなく、マルコは舌を巻いていた。老練の商人でありながら手の内をすべて見透かされているような気持であった。

「平民だよ、平民。図々しいだけさ」

 ジョバンニは悪気のない笑みを浮かべた。

 道中のお供・・にと、マルコからはその他に保存食をいくらか持たせてもらった。行き届いたことである。

 世話になったと一声残し、ジョバンニとリーナは店を後にした。

「驚きました。本当に落ち着いていらっしゃるんですね」

 店から離れたところで、リーナがそれまで溜めていた驚きを吐き出した。

「違うよ。貴族ははったりで生きているからね。ポーカーフェイスがうまくなっただけさ」

「とてもそれだけには思えません。古株商人とあれだけやり取りできるとは」

「――実はスキルを使っていたんだ」

 ジョバンニは小声で打ち明けた。

「スキル――。レンタル・メンタルという恩寵ですか?」

「そうさ。そうしたら思い通りに会話ができてね」

 リーナはどうにも腑に落ちなかった。

「でも、他人の性格を盗めるだけなんですよね?」

「盗むって……。聞こえが悪いよ。借りるだけだから」

 ジョバンニは心外であると、鼻を膨らませた。

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