第九話 貴族の約束

「旅には必ず馬車をお使いください」

「ああ。そうしよう。用心のためだね」

「お察しのとおりです。徒歩での道中は追剥が出ることもありますので」

 子供二人の道中では、誰から見ても良いカモに見える。ジョバンニの品の良さが余計に危ない。

「そしてこの家紋だね」

「お目ざといですな。当レンツ商会の紋でございます。当家の身内に手を出せばどうなるか、悪党ならよく承知しておりますので」

「気遣いありがとう」

「行く先々の商家で見せて頂ければ、必ず便宜を図ってもらえましょう」

 私的な通行手形のようなものであった。武器としての価値よりもはるかに高い。

「重ね重ねすまない。代金はいくら払えばいい?」

「いえ、結構でございます。引き取らせていただいた衣装との差額で、十分で」

 確かに元の衣装にはそれだけの価値があった。とはいえ、その衣装は後日ランスフォード家に返却するつもりでいるマルコであった。

「分かった。世話になる」

 ジョバンニは素直に好意を受けた。

 貴族が好意を受け入れることには重みがある。いずれそれ相当の庇護を与えるという、暗黙の約束であった。平民となったジョバンニであるが、心根は貴族のままだった。

 故にマルコが礼を述べる。

「ありがとうございます」

 差し出す側、受ける側。どちらも当然のこととして、やり取りが交わされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る