第五話 寄り道

「ここさ」

 ジョバンニが立ち止まったのは、とある商店の前だった。

「このお店ですか?」

 リーナは初めて来る場所のようだ。「レンツ商会」と書かれた看板をしげしげと見上げる。

「ここで支度を整えようと思ってね」

 ジョバンニはすたすたと店に足を踏み入れた。

「ごめんよ。マルコはいる?」

 ジョバンニは店の奥に声を掛けた。

「はい。そのお声は若様ですか?」

 奥から出てきたのは、40代の男性だった。きっちりとした服装に、鼻の下に蓄えた髯がアクセントとなっている。

「やあ、久しぶりだね」

「これはこれは、ようこそお出でくださいました。本日はどのような御用で?」

 やり手の商人らしく、少女一人を連れただけのジョバンニをいぶかしむこともなく、すんなりと要件に入った。

「ちょっと問題があってね。今日から家を離れることになった」

「――。恩寵の授与で何かありましたか?」

 ジョバンニの様子で察したのであろう。マルコという店主は声を落として、そっと尋ねた。

「うん。どうやら外れスキルを引いたらしい。ランスフォードの姓を返上することになった」

「左様ですか。お察しいたします。それで、わたくし共でお手伝いできることがありましょうか?」

「それなんだが、この格好で旅に出るというのもね?」

 ジョバンニは自分の身なりを見下ろして見せた。

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