第31話 ディアナからの誘い
「リース来てねーな……」
根本は変わらないらしい。
期待はあるにはあったが別に大きなものでもなかった。とは言え、リース以外に魔法科で交流がある生徒はいない。
クラス内ではより一層に。
教室に居ても仕方がないと他のクラスメイトよりも先に立ち上がり教室の扉を開き、食堂に向かう。
「お、カレンさん?」
昼休み、何かを考えているようなカレンが食堂にいた。ひとりぼっちのようだ。
「あ、ガリウス」
「相変わらず1人か?」
「違うわよ」
「……?」
彼女と相席をしている相手は見当たらないが何を言っているのだろうか。
「我がっ、友ー!」
ジョージがガリウスを見つけて嬉しそうに駆け寄ってくる。
「一緒に昼食を食べぬか?」
「ああ、いいぜ」
ガリウスも食堂のカウンターに向かい注文をして、数分ほどでジョージ達の元に戻ってくる。
「お待たせ……て、あれディアナさん?」
「あ、ガリウス」
「1人じゃないってそう言う……あー、俺たち邪魔か?」
こう言うのは男子は男子、女子は女子と相場が決まっている。クラス内でのグループ分けも大体がそうだ。
義務でもなければ男女混合のグループなど基本的に発生し得ないのだとガリウスは考える。
「いや、ガリウスとジョージも一緒に食べよう」
食事の乗った皿を持って移動しようとしたところをディアナに引き止められる。
「……んじゃ、お言葉に甘えて」
ガリウスは椅子に座る。
「いやー、にしても居たたまれないな」
席を囲む4人の内3人が武術科の生徒であり、ガリウス1人が魔法科となっては共通の話題というのも用意し難いだろう。
「俺以外全員武術科だし」
居心地の悪さがある。
別にジョージと2人ならば何ともないが、この人数差は困ってしまう。
「別に学校の生徒なんだし、気にする必要はないんじゃないかな」
ディアナはガリウスを見ながら言う。
「……そう考えたいな」
同じ学校の生徒だとしても色々と感情があるだろう。気にするだけ無駄と分かっていてもチクチクと刺さるものはある。
「で、カレンさんよ」
「何?」
「友達できて良かったな」
ガリウスが励ますように言って食事を口元に運ぶ。
「友達……」
カレンは隣に座るディアナへ視線を向けるが、ディアナの視線はジョージとガリウスに向けられている。
「ねえ、ディアナ」
ツンツンとカレンは隣に座るディアナの腕をつつく。
「あ……ご、ごめん」
頑なにカレンと視線を合わせようとしない。
「そ、それでどうしたの?」
視線を合わせずに彼女が尋ね返す。
「私たちって友達?」
カレンは友達と呼べる存在がいた事がないのだろう。だからこんな質問をしてしまう。
「……違うよ」
聞き取れないような小さな声でディアナは呟いた。
カレンはディアナにとって好きな相手で友達で終わりたくないような相手なのだ。だから、違う。
「はぁ〜……カレンさんねぇ」
「な、なに?」
「『私たち友達だよね?』は言っちゃダメだろ」
「な、なんで?」
「友達に友達だよねは言わないんだよ」
「そうなの?」
「そうなの」
ガリウスの言葉によって友達云々という話は解決した。
「じゃあ、うん。ディアナ……これからもよろしくね」
改めて。
今度は友達として。
「う、うん」
友達なのだ。
カレンからしてディアナは単なる友達。それ以上になれない。愛しているのに、好きなのに。
「あー、ディアナさん。今日もカレンさんと勝負すんのか?」
毎日なんだろ。
ガリウスが尋ねればディアナは答えに迷う。いつも負けているが、結果は大事ではない。最初は嫉妬だったが、段々と恋に染まっていった感情を隠して会う時間を増やそうとした。
けれど、だ。
「それは」
けれど、あんな夢を見た後でカレンと2人きりになるなどまともでは居られない。
「そ、そうだ……ジョージとガリウスも一緒に」
「あー……折角の誘い悪いけど」
ガリウスが断る。
「我もすまぬが」
ガリウスが断った以上、女子2人に囲まれて訓練をするのはジョージの精神的にも恥ずかしさやらがある。
「そ、そっか……じゃあ、今日は」
止めておくよ。
消え入りそうな声でディアナが漏らした。
食堂を出てしばらく歩き魔法科と武術科が分かれる辺りまで来てガリウスが言う。
「じゃ、ジョージ。また放課後な。カレンとディアナもまたな」
「うむ! 午後の授業も頑張るのだぞ!」
ガリウスは3人と分かれて魔法科の教室に向かう。ディアナの様子が昨日会った時と随分と変わっていたと思う。
何せカレンの話を聞く限りでは毎日の様に戦いを挑んできていたのだから。
「……何で断ったんだ?」
3人の背中を見送りながらカレンからわずかに距離を取っているようにも見えてしまうディアナを不思議に思いながら、ガリウスは考える。
「……ジョージと俺のことも誘ってきたし」
2人きりになるのを避けているのか。
どうして。
「まさか、喧嘩か?」
もしそうなら。
「俺……さっきの会話まずったか?」
喧嘩の可能性を口にしてみたが、どうにもそう言った物ではないようだった。すぐに否定する。
「いやいや、2人とも険悪ってわけじゃなかったな」
そもそも喧嘩をしていたのなら食事の約束なども無かったことになっているはずだ。ならば、原因はガリウスが考えられる範囲にない。
「ま、俺関係ねーな。余計な詮索って奴か」
これは2人だけの話で、わざわざ推測をたて検証し確かめる理由もない。
「……うしっ、頑張るか」
ガリウスは息を吐きながら振り返り廊下を歩き始めようと1歩を踏み出し、フニョンと柔らかな感覚のある何かに顔がぶつかった。
「わっ、ガリガリくん」
女性の声。
聞き覚えがある。
「…………あー」
声が聞こえた瞬間、即座に離れて警戒態勢に入る。
「すみません」
態勢は変わらず。
「マリエル先生」
ぶつかったのは彼女の胸だ。
柔らかいだとか、気持ちいいだとかは確かにガリウスにもあったが顔に出すつもりはない。
「も〜っ、ガリガリくん。ダメだよ、ちゃんと前後左右上下を気にしないと」
めっ、と右手は人差し指を立て、左手は腰に当てながら注意する。
「学校内でそこまで警戒することあります?」
というか胸に触れられたとか顔を突っ込まれたとかの辺りに怒っていないのかと思うが彼女が口にしない以上、ガリウスが言及する必要もないり
「え〜……ほら、騎士の時の悪魔の件もあるし。この前のみたいな姿を全然表さない奴だって居るんだよ〜!」
脅かせようとしているのか手は猫の手でガリウスに向けてくる。
「へ〜、悪魔って色々いるんですね」
別にガリウスとて悪魔が1種類だけだと思っていたわけでもない。
1つ、気になった。
「何かマリエル先生の言い方だと他にも見えないやついるみたいですけど」
マリエルの口振りから予想できたことをガリウスが確認するために尋ねると、彼女は優しく答える。
「そうだよ〜。ウィスパーみたいなのは姿を隠せるから人間の国に入り込んでくるの」
所謂、工作兵の様なものだ。
とは言えこうして来るのは下っ端。
「あとはリリン。リリンは夢から夢へと亘り歩くの。まあ、姿を隠せるのはリリンとウィスパーくらいかな?」
この2つの悪魔は暗躍に適している。
姿がない彼らは簡単に入り込める。
「リリン……初めて聞きましたよ。で、そいつが夢に入るから何なんです?」
ガリウスが尋ねるとマリエルは意地悪に笑いながら「答えても良いけど」と前置きをする。
今は昼休み。
それももう終わろうとしている。
「授業、始まるんじゃない?」
「……また放課後かよ!」
仕方なしにガリウスはマリエルの横を大股で通り過ぎた。
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